■Davis Cup / Water Davis Jr. (Blue Note)
今の日本ほど正統にして真っすぐなものが求められている時期はないでしょう。
奇を衒うことも、人気取りをする必要もないことは、国民の皆がわかっていると思います。
ですから私が、そんなこんなの気分の中で、このアルバムを取り出してしまったのは当然が必然です。
とにかく演じられているのは実直な力演ハードバップ!
そしてウォルター・デイビスにとっては、モダンジャズ全盛期に残した唯一のリーダー盤として最初で最後(?)の大傑作になりましたが、まさに時代の勢いとピュアなハードバップ魂が満喫出来るアルバムでしょう。
録音は1959年8月2日、メンバーはドナルド・バード(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ウォルター・デイビス(p)、サム・ジョーンズ(b)、アート・テイラー(ds) という、これで文句を言ったらバチアタリな面々です。しかも演目は全てウォルター・デイビスのオリジナル!
A-1 'Smake It
とにかく初っ端から気持が良すぎるアップテンポの直球ハードバップ! ちょいと幾何学的なテーマメロディはビバップの正統を受け継ぐものでしょうし、先発でアドリブに突入するウォルター・デイビスのピアノスタイルはパド・パウエル直系がモロ出しです。
しかも背後にはテンションの高いリフが攻撃的に配され、それが如何にもドナルド・バード&ジャッキー・マクリーンという熱血コンビの存在を際立たせていますねぇ~♪
ですから滑らかにブラウニー系のアドリブフレーズを積み重ねドナルド・バード、その最終部分に待ち切れず、激しく突っ込んでしまうジャッキー・マクリーンの最初のワンフレーズこそ、ゾクゾクするほど個性的な「節」が全開していますから、後は一気呵成の激情大会!
あぁ、これがハードバップの醍醐味でしょうねぇ~~♪
本当にたまりませんよ♪♪~♪
演奏はクライマックスで短いのが勿体ないアート・テイラーのドラムソロが用意され、そこからラストテーマに返すという真実の王道が楽しめるのでした。
A-2 Loodle-Lot
ミディアムテンポでモダンジャズのムードが横溢したテーマメロディは、幾分の煮え切らなさが聴き飽きないポイント!? そう言っては贔屓の引き倒しでしょうねぇ。
しかしそのあたりのモヤモヤを吹き飛ばしてくれるのが、ジャッキー・マクリーンの野太い泣き節が全開のアドリブです。例によってギスギスした節回しが、実にたまらないんですよ。
そしてウォルター・デイビスの良い意味での没個性ピアノ、また王道を行くドナルド・バードのトランペットが、この時代の空気までも封じ込めたブルーノート特有の録音&ミックスで今でも楽しめるのですから、その普遍性の偉大さには脱帽するばかりです。
メリハリの効いたドラムスとベースの安定したビート感にも感謝!
A-3 Sweetness
これはスローな哀愁系の曲ではありますが、やや、せつなさが足りません。
そう思うのが正直な気持じゃないでしょうか。
まあ、このあたりがデューク・ジョーダンとウォルター・デイビスの人気の差の証明と言っては失礼かもしれませんが、それを救うのがドナルド・バードの素直な歌心に満ちたアドリブで、テーマ曲に秘められた刹那の味わいを濾過したような純粋さが良い感じ♪♪~♪
う~ん、こうなるとジャッキー・マクリーンが吹いてくれないのは、残念……。
B-1 Rhumba Mhumba
誰もが一度は耳にしたであろうラテン音楽のキメを流用した、思わず失笑のテーマが最高の極みです。あぁ、これもハードバップの楽しみのひとつでしょうねぇ~~♪
そしてこういう臆面も無い設定こそ、ジャッキー・マクリーンにはジャストミート! ここでの楽しげに歌いまくったアルトサックスは和みの絶好球でしょう。またウォルター・デイビスの棒読みの台詞のようなピアノ、さらにインスタントソーダ水の如きドナルド・バードのトランペットからは、懐かしくも甘く、せつない気分が強く滲み出て来るような気分にさせられるんですから、時の流れは偉大です。
そうした後追い鑑賞にも、じっくり耐えられるのが、この演奏とアルバムの魅力かもしれませんねぇ。
B-2 Minor Mind
如何にもこのメンツならではの燻ったマイナー調のハードバップ♪♪~♪
こうした味わいこそ、ジャズ者にとっては掛け替えの無いものだと思います。
ミディアムテンポで力強いリズム隊のグルーヴは、実にメリハリが効きまくっていますから、何時も同じようなフレーズばっかり弾いているウォルター・デイビスのアドリブにしても、そこで醸し出されるムードは決して現代では再現不能でしょう。
さらにジャッキー・マクリーンの内に秘めた炎の燃え滾り、またナチュラルに黄金期を謳歌するドナルド・バードも、実に当たり前の快演というところがニクイばかりですよ。
B-3 Millie's Delight
元気溌剌のハードバップこそ、このアルバムのオーラスには相応しい!
そんな思いの中で青春の情熱を迸らせるジャッキー・マクリーンが、いきなりの痛快至極です。さらにドナルド・バードの淀みないアドリブの見事さも、それゆえにかえって物足りないと思うほどですから、この時代の贅沢には羨ましくなりますよ。
ということで。実はジャズ者の琴線に触れるような美味しい曲も無く、またジャズの歴史云々という重要盤ではありませんが、こういうアルバムこそが愛好者には嬉しい1枚だと思います。
とにかく基本に忠実という、なかなか難しいことに真正面から取り組んだ姿勢は、あの人類の起源に関連するミッシングリンクようなウォルター・デイビスの風貌共々に強いインパクトがあるのです。
こういうものが聴かれ続けている間は、ジャズも死なないでしょう!
新しいリーダーになった人には、そういう点を心して欲しいものです。