■Blues Before Sunrise / Leroy Carr (Columbia)
今はどうなっているか、ちょっと分かりませんが、とにかく我国でブルースロックではない、本物のブルースを聴こう! というブームが最初に高まったのは昭和49(1974)年だったと思います。
実はこの年、私はある幸運から6~9月までの間、アメリカに行けたんですが、それが帰国して吃驚したのは、前述したブルースの大ブーム!?
なにしろラジオではブルース専門の番組が始まったり、レコードもオリジナル音源を大切にした再発がドカッと出たり、ついには本場のブルースマンが来日公演をやったりという活況でしたから、サイケおやじも何時しかそれに導かれ、様々な本物のブルース探求へと奥の細道を辿り始めたのですが、当然ながら、ブルースはギターばかりではなく、ピアノやハーモニカ等々、いろんな楽器をメインしたジャンルが林立していることを知るのです。
そしてその中で最初に感銘を受けたのが、本日の主役たるリロイ・カーという、1930年代のピアノブルースでは代表的な人気歌手でした。
その魅力は都会的な洗練とそこはかとない哀愁の絶妙なミックス云々とガイド本では解説されるようですが、実際、聴けば全くそのとおりなんですねぇ~♪
掲載したアルバムは、リロイ・カーが1932&1934年に吹きこんだSP音源を纏めたLPです。
A-1 Midnight Hour Blues
A-2 Mean Misterater Mama
A-3 Hurry Down Sunshine
A-4 Corn Licker Blues
A-5 Shady Lane Blues
A-6 Blues Before Sunrise
A-7 Take A Walk Around The Corner
A-8 My Woman's Gone Wrong
B-1 Southbound Blues
B-2 Barrerhouse Woman
B-3 I Believe Make A Change
B-4 Bobo Stomp
B-5 Big Four Blues
B-6 HustLer's Blues
B-7 Shinin' Pistol
B-8 It's Too Short
演奏スタイルの基本はピアノの弾き語りなんですが、そこに最高の相方として彩りを添えるのが、スクラッパー・ブラックウェルというギタリストです。もちろん時代的にはアコースティックギターというのが結果オーライ♪♪~♪
これが実にメロディアスな単音弾きで、自然体の哀愁が滲み出るリロイ・カーの歌いっぷりを堅実にサポートすれば、本来がせつないブルースの歌詞と特有の都会的なブルースフィーリングが、もうこれ以上無いほどに醸し出されるのです。
このあたりは同時代のジャズやジャズボーカル、あるいはこれ以前のジャズブルースといった分野からの影響と相互作用が確実に働いていると、まあ今日では客観的に推察も出来るんでしょうが、リアルタイムでは最高にお洒落な音楽だったと思いますねぇ。
当然ながら聴いていたのは黒人層が圧倒的だったと思いますが、こういう洗練された音楽が都市で生活する黒人達のフィーリングだったのかもしれません。
ちなみに収録全曲はニューヨークでの録音とされています。
しかしリロイ・カー本人はナッシュビル生まれのインディアナポリス育ちですから、決して都会の人ではありません。まあ、そのあたりの感覚がどのように生成されたのかは、知る由もなく、ただただレコードに記録されたリロイ・カーの歌と演奏を楽しみつつ、その哀愁のブルースに浸る他はないでしょう。
いろいろと私が稚拙な筆を弄するまでもなく、これはまさに聴かなければ感じられない魅力なのです。
ちなみにリロイ・カーは、このアルバムに収められた一連の名演を残した後の翌年、過度の飲酒によって亡くなったと言われています。享年30歳……。
ということで、ブルースはなにもギターばかりが主役ではなく、またシカゴのモダンブルースやサニーボーイあたりの深南部のフィーリングばかりが真髄ではありません。
ピアノブルースというと、何故かジャズっぽいような先入観が強い所為でしょうか、あまり我国では人気が高いとは言えませんが、確かにそういう傾向があるにせよ、とにかくリロイ・カーは聴いた瞬間に魅了される、何か特別の魅力を持ったブルースマンだと思います。
このアルバムはアメリカで1962年頃に纏められて以降、ロングセラーを続けているそうですから、CDならば尚更に音質の改善もあると思われますので、機会があれば、ぜひともお楽しみ下さいませ。