■Crusade / John Mayall & The Bluesbreakers (Decca)
なんだかんだ言っても、やっぱりエリック・クラプトンはギターの神様!
ですからギターを持ったら一度はコピーに挑戦される宿命を背負っているわけですが、だからといって全てのギター愛好者がそれを完遂出来るとは限りません。自分も含めて、挫折した後にはあらためて平身低頭するのが当然の帰結でしょう。
それでも中には、それを立派にやり遂げた才能の持ち主も少なからず存在し、そのひとりがミック・テイラーでしたが、この人の場合はブライアン・ジョーンズの後任としてストーンズに入ってからがあまりにも有名ですし、その頃には自分なりの手癖という立派な個性を確立していたので、エリック・クラプトン!?! という唯一無二のスタイリストとの接点はあまり感じられないかもしれません。
しかしストーンズ加入以前のミック・テイラーが雇われていたジョン・メイオール&ブルースブレイカーズ時代には、その音楽性の要がブルースロックだったことから、やはりギタリストは最初の看板スタアだったエリック・クラプトンの影響から脱することが出来ません。
そして特にミック・テイラーの場合は、それが初期において非常に顕著で、参加して最初のLPとなった本日の1枚には、その証が嬉しくも存分に記録されています。
A-1 Oh Pretty Woman
A-2 Stand Back Baby
A-3 My Time After A While
A-4 Snow Wood
A-5 Man Of Stone
A-6 Tears In My Eyes
B-1 Driving Sideways
B-2 The Death Of J.B. Lenoir
B-3 I Can't Quit You Baby
B-4 Streamline
B-5 Me And My Woman
B-6 Checkin' Up On My Baby
メンバーはジョン・メイオール(vo,key,g,hmc,etc)、ミック・テイラー(g)、ジョン・マクヴィー(b)、キーフ・ハートリー(ds)、クリス・マーサー(ts)、リップ・カント(bs,as) という当時のレギュラー6人組ですが、既に述べたことも併せ、これもまたメイオール親分には申し訳なくも、結局はミック・テイラーというギタリストを中心に聴いてしまったアルバムです。
そのあたりはアルバート・キングの「Oh Pretty Woman」、バディ・ガイの「My Time After A While」、フレディ・キングの「Driving Sideways」、オーティス・ラッシュの「I Can't Quit You Baby」といった、バリバリの黒人ブルース歌手&ギタリストの有名カパーが演じられているところにも大きなポイントが否定出来ず、これでミック・テイラーに期待するな! という方が無理というものでしょう。
ちなみにこのアルバムの発売は1967年でした。しかしサイケおやじが現実に聴いたのは1975年という完全な後追いであり、その目的はもちろんミック・テイラーでしたが、既にその頃には「ストーンズでのミック・テイラー」というプレイが耳に焼き付いていましたから、その初期の実相には様々な情報を得ていたとはいえ、やはり幾分の驚きがありました。
それはエリック・クラプトンのコピーに勤しんだ若き日のミック・テイラーが、そのものズバリ! つまり私を含めた世界中の多くのアマチュア&ド素人のギタリストが歩むべき道筋が明確に提示されているように思えたのです。
なにしろ「Oh Pretty Woman」ではギターソロの最初のワンコーラスがチョーキングを主体とした、如何にも簡単にコピー出来そうなフレーズの連発から、2コーラス目に入るとエリック・クラプトン流儀のスロウハンドな早弾き連続技へと変転するのですが、これは悪質ギリギリのプロの証明でしょうねぇ……。
うまく端折りながらキメを活かしたメインリフの弾き方やチョーキングの泣かせ具合も良い感じ♪♪~♪
ですから丸っきりエリック・クラプトンが十八番の「Further On Up The Road」みたいなフレーズばっかり弾いてしまう「Stand Back Baby」や「Driving Sideways」は、実は元ネタがフレディ・キングなんでしょうし、リアルタイムではそのクラプトンバージョンの「Further On Up The Road」は世に出ていなかったのですから、一概には決めつけられないわけですが、それにしてもミック・テイラーのプレイの端々から滲み出るスロウハンドなクラプトン味には、なかなかニンマリさせられますよ。
そして当然ながらスローテンポでは「My Time After A While」における泣き真似スタイルの情熱、あるいは「Tears In My Eyes」のベタベタした情感、狂おしいオリジナルバージョンを必死で再現しよう奮闘した「I Can't Quit You Baby」等々、いずれも思い余って技足りずと言ってしまえばミもフタもありませんが、それでも青春の情熱をギターに託した一途な感情の発露は、それはそれで立派なブル~スじゃないでしょうか。
特に「I Can't Quit You Baby」のギターソロには、かなり熱くさせられますよ。
そして当時のバンドの勢いも決して侮れず、やっていることはブルースというよりも、ブルースロックの王道路線を確立せんとする意気込みが最高!
中でもミック・テイラーとメイオール親分が共作した「Snow Wood」のソリッドな味わいは実にカッコ良く、ソウルフルに蠢くベースや残響音を巧みに利用したゴスペルチックなドラムス、さらにスタイリッシュで熱いギターソロに上手い彩りを添えるクールなオルガン♪♪~♪ モンド系のホーンリフもイカシています。
ちなみに全篇を通してヘヴィでタイト、なかなかパワフルなドラミングを披露するキーフ・ハートリーの力演も聴き逃せませんが、肝心のメイオール親分もツボを押さえたハーモニカはもちろん、例えは「Stand Back Baby」で演じるヘタウマなスライドギターが憎めませんねぇ。
それゆえにオーラスで演じられる、おそらくはメイオール親分が当時から十八番にしていたであろうサニー・ボーイの「Checkin' Up On My Baby」が実に楽しく、これがブルースロックの全て分かっている楽しみでしょうねぇ~♪ ここで聴かれるヘヴィなビートが後のハードロックへと繋がるのも、なんだか意味深のような気がします。
ということで、あくまでもミック・テイラーをお目当てに聴いても十分に許されるアルバムでしょうし、そこにエリック・クラプトンの残影を感じるのも、また正解でしょう。
ただしミック・テイラーが、ここでのクラプトンコピーから脱していく過程は、後に作られていくブルースブレイカーズのアルバムや当時の発掘音源によって最高に興味深く楽しめる現在において、何故にメイオール親分がミック・テイラーを雇い入れたのか、明らかだと思います。
一説によれば、エリック・クラプトンが去り、ピーター・グリーンが加入する間の短い時期のある日、ミック・テイラーは自らをメイオール親分に売り込んだと言われていますが、その時点のミック・テイラーは十代半ば!?!
全く凄すぎる度胸も、それだけのテクニックとブルースへの情熱があればこそ、若気の至りとは言えないと思います。
実際、若き日のサイケおやじは、このLPを聴きながらミック・テイラーのギターをコピーせんと奮闘した事もありましたが、そこには教則本に載っているようなスケールやフレーズが多いとはいえ、一筋縄ではいきませんでした。もちろんそれは、現在でも同じです。
しかもそんな事をやっている間にも、ミック・テイラーは我が道を行くが如き勢いを身につけ、ついにストーンズで大輪の花を咲かせてしまうのですから、それだけの未来を既に感じさせていた才能の閃きが、メイオール親分には分かっていたのでしょう。
もちろんプレースプレイカーズ時代にも、例えば「ブルースバンドの日記」とか、物凄いアルバムをきっちり残しているミック・テイラーではありますが、ストーンズのライプ全盛期の音源あたりを聴くにつけ、ここに記録された初々しいプレイにも惹きつけられる自分を再認識しています。