■The Trio Live From Chicago / Oscar Peterson (Verve)
アインシュタインが提唱した相対性理論によれば、絶対的な基準はありえず、時間も長さも伸び縮みし、質量もそれに伴って増大減少するとされていますが、それは慣性の世界という等速運動があってのことらしいので、つまりは一般社会では今日でもニュートン力学が生きています。
つまり何かを基準に物時を判断するのは個人の自由であり、なんら他から惑わされるものではないでしょう。
ですからサイケおやじがジャズピアノトリオの基準しているのは、本日ご紹介の1枚!
と、そんな屁理屈を講じ無くとも、名盤には違いありませんし、実はサイケおやじがジャズを本格的に聴き始めた頃に買った最初のオスカー・ピーターソンが、これでした。
メンバーは言わずもがなのザ・トリオとして、オスカー・ピーターソン(p)、レイ・ブラウン(b)、エド・シグペン(ds) というだけで、これはもう決定的なんですが、ここではライプレコーディングということで、同時期のスタジオセッションよりも曲単位の演奏時間が長く、しかも演目そのものが親しみ易いというジャズ本来の魅力が横溢しています。
ちなみに録音されたのは1961年7月28&29日らしいことが、現在では特定されているようですが、諸説もあることを付け加えておきます。
A-1 I've Never Been In Love Before
あまり有名ではないスタンダード曲ですが、そのメロディを美味しく展開させる語り口は、まさにオスカー・ピーターソンがザ・トリオの証明♪♪~♪ ミディアムテンポの幾分地味な2ビートでの演奏進行が、中盤で4ビートに突入する場面のグッとシビレるグルーヴは、本当に独壇場の快感ですよ♪♪~♪
しかもアレンジが実に用意周到というか、レイ・ブラウンの伴奏のキメ、あるいはエド・シグペンのハイハットひとつをとってみても、並みのプレイヤーでは相当にシンドイであろう要点が、ここでは余裕綽々で演じられているのですから、その場のお客さんはもちろんこと、スピーカーの前のファンも決して疲れずにリラックスさせられるんだと思います。
またオスカー・ヒーターソンの弾くアドリブフレーズの随所に滲み出るファンキーでブルージーなフィーリングは、この1959年という黒人ハードバップ絶頂期の味わいとして、本当に自然な感じがして、私は大好きです。
う~ん、グルゥ~ヴィ~~♪
A-2 (In the) Wee Small Hours
ご存じ、フランク・シナトラの十八番として人気スタンダードになった小粋な曲ですから、そのジェントルでハートウォームな雰囲気は如何なる演奏者でも蔑には出来ないでしょう。そしてオスカー・ピーターソンのここでの繊細な表現は、まさに絶品♪♪~♪
流麗なピアノタッチでじっくりと描かれていく詩情は、ビル・エバンスの世界にも通じるところでしょうが、個人的には最初に体験したオスカー・ピーターソンの流儀が優先して耳に馴染んでいます。
一般的にはオスカー・ピーターソンというとド派手なテクニックで聴き手を圧倒するとか、豪華絢爛な世界を構築していくスローな解釈というイメージが強いと思いますが、ここでの微細な感情の綴り方は、レイ・ブラウンの寄り添うベースの秀逸さもありますから、もっと認識されてしかるべきと思います。
A-3 Chicago
レコーディングされたシカゴに因んだご当地ソングということで、不穏なイントロからお馴染みの曲メロが出た瞬間、客席から沸き上がる拍手が、してやったり!
こういう洒落っ気がオスカー・ピーターソンの人気の秘密なんでしょうねぇ。
ですから演奏もグルーヴィな4ビートからラテンのリズム、さらに急加速のアップテンポまで、まさに千変万化のテクニックとノリの良さで圧倒的な実力を披露するザ・トリオの真髄が楽しめます♪♪~♪
う~ん、それにしてもこんな曲調でゴスペルフィールを滲ませてしまうオスカー・ピーターソンは、なかなかこの時期だけの特徴かもしれません。
またレイ・ブラウンのペースが、これまた凄いとしか言えず、それはクッキリと指使いまでも推察出来る録音の良さもありますが、基本の音楽性が驚くほど幅広いんでしょうねぇ~♪ この頃のステージ写真では、レイ・ブラウンの立ち位置がオスカー・ピーターソンの弾く鍵盤の見えるというポイントがあって、おそらくは使われるコードを先読みしながら演奏していたんじゃないか? そんなふうにも思っています。
B-1 The Night We Called It A Day
マット・デニスが書いた名作人気曲ということで、そこに顕著な都会的な雰囲気を極力大切にしたパラード演奏の極みつき! その慎ましいピアノタッチは、しかし決して軟弱ではなく、間隙の静寂から聞こえてくる客席のざわめきさえも音楽の一部にしたかのような、実に良いムードが漂ってくるんですねぇ~♪
もちろん基本となる歌心の素晴らしさは言わずもがな、早いフレーズの使い方も全くイヤミが無いと思います。
B-2 Sometimes I'm Happy
これがジャズピアノトリオの歴史的名演!
と昔っから定説になっているわけですが、それはレスター・ヤングの往年の名演で使われたアドリブフレーズをイントロと〆に使うという禁断の裏ワザからしてニクイばかり♪♪~♪ そしてナチュラルなグルーヴを追及していくザ・トリオの真骨頂が徹頭徹尾、楽しめますよ。
しかもオスカー・ピーターソンのピアノタッチが繊細な指使いからダイナミックなブロックコード弾きまで、それこそ音域の幅と力の強弱が格段に大きく、それゆえにアンプの音量を上げてしまうと、クライマックスでガッツ~~ンとやられてしまいます。
またレイ・ブラウンが、これまた自身の代表的な名演といって過言ではない素晴らしさで、特にアドリブソロは出来過ぎと思うほど♪♪~♪
B-3 Whisper Not
ふっふっふっ、このプログラムが気にならないジャズ者は皆無でしょう。
ベニー・ゴルソンが畢生の人気メロディを、その秘められた哀愁をジンワリと表現していく手法で聴かせるザ・トリオ♪♪~♪
異論があろうことは百も承知で書きますが、作者よりも「らしい」解釈が本当に、たまらんのですよ♪♪~♪ テーマパートで繊細に震えるレイ・ブラウンのペースも気が利いていますし、シンプルなエド・シグペンのドラミングもジャストミートだと思います。
ですからオスカー・ピーターソンのピアノがどんなに早弾きや過激な表現に走りかけたとしても、グッと抑制の効いたソフトパップの世界が維持され、リスナーはジワジワと沸き上がって来るジャズ的な快感に身を任せるのみで、全てはOK♪♪~♪
B-4 Bill Boy
ご存じ、レッド・ガーランドやハンプトン・ホーズのバージョンも人気絶大な演目ですが、ここでのザ・トリオの演奏こそ、短い中にも濃密なジャズの魅力がいっぱい♪♪~♪
オスカー・ピーターソンの物凄いドライヴ感も強烈ですが、レイ・ブラウンのウォーキングベースが、これほどまでにシンプルな主役になったことは珍しいと思います。
またエド・シグペンのタイトなドラミングも素晴らしく、アッという間のクライマックスがアルバムのラストテーマっぽくて、何度でも聴きたくなるのでした。
ということで、こんな凄すぎる名演集を最初に頃に聴いてしまってがゆえに、以降の私はレッド・ガーランドもビル・エバンスも、時にはセロニアス・モンクやパド・パウエルの名盤で、それがトリオ編成ならぱ常にこのアルバムを基準に鑑賞するようになってしまいました。
つまり個人的には、ここに聴かれる演奏こそが、常に落ちる時にはきちんと落ちるという、日常的ニュートン力学の愛聴盤なのです。もちろん時間も長さも質量も、絶対に変化しない普遍性が大きな魅力! 聴けば誰しもが、素直に納得するしかない世界だと思います。
もちろんジャズの世界にだって相対性理論に基づく演奏はあるでしょう。むしろ今となっては、そちらの方が多いかもしれません。
あぁ、あの時は良かったのに……。
なぁ~んていう名盤が、相当にゴロゴロしているのでは?
確かアインシュタインの公式によれば、質量はエネルギーに換算出来ると言われています。
しかしそんな理論に頼らなくとも、ストレートに感じられる世界が一番じゃないでしょうか? 自分的には、このアルバムが、そのひとつ♪♪~♪
とにかく、これほど有機的に機能しているピアノトリオ盤は、滅多にあるもんじゃないと思うばかりです。