■The London Howlin' Wolf Sessions (Chess / Rolling Stones)
黒人ブルースマンの大御所と白人ロッカーが共演セッションという、当時の流行物のひとつですが、ブルースのなんたるかをロクに知らなかった若き日のサイケおやじには、まさに端坐して謹聴させられたアルバムです。
主役のハウリン・ウルフは、その名のとおり吠えまくりの濁声ボーカルで強烈なブルース魂を披露した偉人ですが、本格的にレコードデビューしたのは40歳を過ぎてからで、それ以前は有名なロバート・ジョンソンやサニー・ボーイ二世と一緒の巡業で南部一帯を回っていたそうですし、その後に兵役や黒人専門ラジオ放送局のDJとして数年を過ごしていたのが、そのキャリアでした。
そしてシカゴのチェスレコードと契約した1952年からは、都会的なエレキサウンドをバックにダーティ&ワイルドな南部直系のブルースを唸りまくり、ストーンズ等々の英国の若きミュージシャンにも敬愛される存在になったのですが……。
そのハウリン・ウルフとイギリスの白人ブルース小僧が一緒にレコードを作るという企画は、プロデュースを担当したノイマン・デイロンとエリック・クラプトンの世間話が本当になったという、いやはやなんとも、瓢箪から駒!?!
実はエリック・クラプトンのギタースタイルにはフレディ・キングやB.B.キングの他にヒューバート・サムリンという、ハウリン・ウルフの片腕とも言うべき凄いギタリストの影響が大きいというのは、今や定説でしょう。
そのふたりをイギリスに招いて、エリック・クラプトンが集めたバンドがバックアップするという夢の実現が、このアルバムの最初の目論見だったようです。
ちなみにノイマン・デイロンは当時、チェスレコードの嘱託して様々な仕事をやっていたことから、1969年にはマディ・ウォーターズとマイク・ブルームフィールド等々の白人ブルースロッカーを共演させた人気アルバム「ファーザーズ・アンド・サンズ」をベストセラーに仕立て上げた実績がありましたから、関係者はまんざらでもなかったでしょう。
こうして1970年5月初頭、イギリスはロンドンのオリンピックスタジオに参集したのが、エリック・クラプトン(g)、ビル・ワイマン(b)、チャーリー・ワッツ(ds)、クラウス・ヴァマン(b)、リンゴ・スター(ds)、イアン・スチュート(p) 等々、お馴染みの面々でしたが、主役のハウリン・ウルフが帯同してきたのはヒューバー・サムリン(g) とジェフリー・カープ(hmc) 等々の気心の知れた子分達だったことから、現場には緊張とプレッシャーが渦巻いていたとか!?
しかしLP1枚に収められた歌と演奏には、それゆえの強烈な刺戟とブルース本来の悪魔性が、なかなか上手く纏められています。
A-1 Rockin' Daddy
A-2 I Ain't Superstitious
A-3 Sittin' On Top Of The World
A-4 Worried About My Baby
A-5 What A Woman!
A-6 Poor Boy
B-1 Bult For Comfort
B-2 Who's Been Talking?
B-3 The Red Rooster (rehearsal)
B-4 The Red Rooster
B-5 Do The Do
B-6 Highway 49
B-7 Wang Dang Doodle
まずお目当てというか、当時も今も興味深々なのがエリック・クラプトン全盛期のギタープレイでしょう。そして結果は全篇で強烈なリードを弾きまくり♪♪~♪ 師匠とも言えるヒューバート・サムリンは控えめなリズムギターに徹しているようですが、おそらくはリハーサル段階で、リフやキメを伝授していたと思われます。
それでもエリック・クラプトン以下の面々は緊張と畏敬の念が頂点に達していたらしく、ガチガチになってミスを繰り返し、日頃から気難しいハウリン・ウルフを余計にイライラさせていたとか、それゆえに持病が悪化してセッションが中断したとか、とにかくヤバイ雰囲気だったのは後の関係者のインタビューから、今日では様々なエピソードになっています。
ちなみにこのセッションの時、ヒューバート・サムリンはエリック・クラプトンの大豪邸に招かれ、夥しいギターコレクションの中から1本、素晴らしいものをプレゼントされたそうですね。
まあ、それはそれとして、そんな現場の雰囲気が最高度にドキュメントされているのがB面に収録された「The Red Rooster」のリハーサルと本テイクの二連発!
まずはリハーサルで、自らアコースティックスライドを弾いて歌うハウリン・ウルフに、ど~してもタイミングとフィーリングが合わせられないエリック・クラプトンがイモを露呈!? ついに自ら御大に願い出て教えを請うところから、ハウリン・ウルフが素晴らしい本物のブルースを披露するギターは流石♪♪~♪ そしてどうにか感じを掴んだエリック・クラプトン以下の白人小僧達が必死の演奏で仕上げた本テイクの味わい深さは、まさにブル~スロックでありながら、極めて本物のブルースじゃないでしょうか。
というよりも、人種を超えてブルースに何かを感じる環境が整えられた意味合いからすれば、こういうセッションも所期の目的が達せられたわけですから、まさにアルバムの中では最高のハイライトだと思います。
もちろんエリック・クラプトンのギターは、どんな経緯があろうとも、レコードに記録された中では素晴らしいかぎり♪♪~♪
当然ながら随所で多重録音も駆使されていますが、ウキウキさせられるリフと鋭角的なアドリブソロが痛快な「Rockin' Daddy」や「What A Woman!」、ファンキーフレーズが当時としては珍しい「I Ain't Superstitious」、粘っ濃くも神妙な「Sittin' On Top Of The World」、十八番のシャッフルビートが楽しい「Worried About My Baby」、そして如何にもエレクトリックなブルースのテンションが熱い「Poor Boy」が入ったA面は聴き易く、しかもハウリン・ウルフのド迫力な歌いっぷりに圧倒されているホワイトボーイ達の奮闘が感度良好♪♪
それがB面に入ると、前述した「The Red Rooster」のドキュメントを真ん中に、見事な緊張と緩和を楽しませてくれるのですから、このアルバムは本当に良く出来ています。
実はブルースロックがど真ん中の「Who's Been Talking?」等々で冴えまくりのオルガンやピアノはスティーヴ・ウインウッドなんですが、これは後からのオーバーダビングですし、ブラスが熱い雰囲気を盛り上げる「Bult For Comfort」にしても、そういう作為が濃厚というあたりが、この人気名盤の魅力の秘密じゃないでしょうか。ブルースというよりも、なかなかソウルに近い味わいも強いハウリン・ウルフにはジャストミート!
ですから続く「The Red Rooster」のリハーサルから本テイクへの自然な流れが、ますますリアルなんだと思います。
そして以降、熱血の「Do The Do」からエルモア・ジェイムス調の「Highway 49」、そして最も日常的なハウリン・ウルフの雰囲気に近い「Wang Dang Doodle」まで、それこそ一気呵成に楽しめしてしまうんですねぇ~♪
もちろんそこにはエリック・クラプトンの奮闘だけでなく、ビル&チャーリーのストーンズ組が提供する正統派で、時にはファンキーなブルースロックのビートが強く屹立していますし、随所でハッとするほど良い感じのブルースハープを聞かせてくれるジェフリー・カープは、当時弱冠19歳!?!
また、既に述べたように、レコード化されるまでには様々なオーバーダビングも施されたわけですが、主役ハウリン・ウルフのボーカルの強さは何事にも左右されない凄みが健在! それゆえにサイケおやじのようにエリック・クラプトン以下の有名ロックスタアを目当てに聴くファンにも、本物の黒人ブルースの魅力が、そのほんの入り口ではありますが、大いに楽しめたというわけです。
ちなみにアルバムそれ自体の発売は1971年8月で、アメリカではチェスレコードから出て当然ながら、イギリスではストーンズが当時設立したばかりの自分達のレーベルだったローリングストーンズレコードからというのも全く絶妙で、これはビル&チャーリーの堂々たる参加はもちろんのこと、会社の初代社長がチェスレコード創業者の息子だったマーシャル・チェスという因縁も大きいのかもしれません。セッションに特にこれという貢献が見当たらないミック・ジャガーの名前がしっかりとクレジットされているのも、そのあたりの経緯によるものでしょう。
ということで、聴いた瞬間からブルース&ブルースロックの魅力にどっぷりと惹きつけられる名盤だと思います。
もちろんこれがブルースの真髄だなんていうことは決してありません。
むしろ黒人大衆音楽からすれば、完全なる邪道なんでしょうが、ブルースそのものの魅力は確かにここにあるわけですし、実際、サイケおやじはクリームやジョン・メイオール、フリートウッド・マック等々の英国産ブルースロックからの正統な流れの中で邂逅したこのアルバムによって、ますますブルースに魅了されたのです。
さらに嬉しいことには、この時のセッションには相当数の未発表トラック&テイクが残されていたようで、続篇盤も出ましたし、今日ではCDによってきっちりと美味しいところが楽しめるはずです。
エリック・クラプトンのファンは必聴!
最後になりましたが、このLPではリッチーと表記されているリンゴ・スターは1曲だけの参加で、その「I Ain't Superstitious」でのドラミングが相当にミスマッチ!?! ところがそれゆえに味わい深い全体のグルーヴが新鮮なファンキーフィーリングを生み出していると感じるのは、私だけでしょうか?
それともうひとつ、こういうセッションを聴いていると、そこにブライアン・ジョーンズの不在を痛切に感じざるをえません……。もし故人のスライドギターやハーモニカがここにあったら、それは……。
やっぱりなんとも罪作りなアルバムなのかもしれませんね。