■It's Getting Better / Mama Cass (Dunhill / 東芝)
それなりに長く生きてしまったサイケおやじにしても、今年ほどロクな事の無かった日々は、ちょいと記憶にありません。
それは言わずもがなの大震災から原発事故、全く出口の見えない不景気、政治の混乱やお役人衆の唯我独尊に振り回され、国民は何を信じて明日に向かうのか……。
しかし、そんな日常でも、生きていればこその享楽を求めてしまうサイケおやじは、リスニングライフにおいて、何かお気楽な「バブルガム」系のレコードに手が伸びてしまい、最近は拙ブログでも、そうしたご紹介が多発しているというわけです。
そして本日も、その流れの中で思わず取り出してしまったのが1969年に発売されたママ・キャスのシングル盤で、特にA面の「It's Getting Better」は明るく前向きなムードと絶妙の胸キュンフィーリングが最高の要素で融合した名曲にして名唱!
そう、断言して後悔致しません。
ちなみに1980年代末頃から洋楽マスコミによって広められた「産業ロック」なぁ~んていう、なかなか忌まわしい用語がありますが、「音楽」を「産業」として成立させたのはアメリカ西海岸のハリウッドでしょうし、そこには音楽だけでなく、映画やテレビの制作現場も集中していますから、結果的に「ウエストコーストロック」と称された流行が誕生するのも、その下地があればこそ!?
つまりハリウッドで作られていたポップスはサイケデリックだとか、ハードロックだとか、とにかく時代の最先端をリードする要素が大衆に媚びるが如き姿勢で、しかも必要以上に強調されたものだったのかもしれません。
ですから例のフラワー・ムーブメントの一翼を担ったママス&パパスのママ・キャスがバブルガムロックを歌うとなれば、楽曲もバックの演奏パートも、アレンジもプロデュースも、諸々を含めた最高のスタッフが揃えられなければ成り立たないわけで、その点を極北的に追求完成されたのが、この「It's Getting Better」だとサイケおやじは思います。
とにかくアップテンポで解放感に満ちた曲メロの展開は、ママ・キャスというジャズもロックもソウルも完全に歌いこなせる実力派シンガーによって、既に原曲の魅力を超えた圧巻の仕上がりになっているのですから!
しかし、楽曲そのものの素晴らしさも、やはり打ち消すわけにはいきません。
なにしろそれを書いたのがバリー・マン&シンシア・ワイルという、1950年代から第一線でポップスの名曲を世に送り出し続けて来た名匠ですし、プロデュースを担当したのが、このシングル盤の制作レーベル「ダンヒル」を創立したルー・アドラー子飼にして、サーフィン~ホッドロッド時代から西海岸ポップスのキーパーソンだったスティーヴ・バリというだけで、バックの演奏をやったメンバー、つまりハル・ブレイン(ds,per)、ジョー・オズボーン(b)、ラリー・ネクテル(p,key) 等々の名前が自然に導き出されてしまうという、まさに完全無欠のプロジェクトが、ここにあるのです。
しかも、これは後に同曲が収録されたLP「バブルガム・レモネード&サムシング・フォー・ママ」の裏ジャケットに掲載されたクレジットで判明したのですが、アレンジを担当したのが、これまた当時のポップス界で大きな注目を集め、今に至るも絶大な影響力が無視出来ないジミー・ハスケルなんですから、これでしょ~もない作品が出来てしまったら、ポップスの神様が激怒しますよねぇ。
ということで、なにはともあれ、こうして緻密に作られながら、軽い気分で楽しめる歌や演奏こそが、今のサイケおやじには必要みたいです。
今年を振り返るには、やや早い時期ではありますが、仕事はゴッタ煮状態でしたし、それは大災害の影響を否定は出来ず、加えて気脈を通じていた盟友が次々とリタイヤ……。もちろん自分自身のふがいなさは言うまでもありませんが、既に来年の苦境が容易に推察出来るんのは、情けないかぎりです。
ただし、それでも「楽しいことを作っていくのが人生」という、独り善がりの思いで生き続けているサイケおやじは、これからも享楽を求めていく姿勢を変えることは出来ないでしょう。
あと僅かとなった本年、少しでも楽しくやっていきたいものですねぇ~~。