■白昼の襲撃 Original Sound Track / 日野晧正 (東宝 / disk UNION = CD)
もちろん、今でもそうですが、しかし昭和40年代前半から数年間の日野晧正のカッコ良さは群を抜いていました。
なにしろ当時は大ブームだったGSの人気グループと遜色無いスタアバンドとして、日野晧正クインテットはライプステージの現場でも、またテレビ出演時でさえも、女性ファンの嬌声に包まれていましたし、その音楽性も最先端のモダンジャズを基調としながら、決して難解な頭でっかちでは無い、まさに直観的な快楽性が満載!
で、本日のご紹介は、そうしたリアルタイムの日野晧正を堪能出来る驚異の発掘音源集として、自らのクインテットを率いて担当した東宝映画「白昼の襲撃(昭和45年・西村潔監督)」から、正真正銘のフィルムサウンドトラックです♪♪~♪
01 タイトルバック
02 オン・ザ・コーナー (スネイク・ヒップ)
03 スーパーマーケット
04 海
05 ピストル
06 電話
07 タクシー
08 足音
09 ブルース
10 仲間
11 桟橋のトランペット
12 深夜の街
13 ジョニーの船
14 ゲッタウェイ
演奏メンバーは日野晧正(tp)、村岡建(ts,fl)、鈴木宏昌(p,el-p)、稲葉国光(b,el-b)、日野元彦(ds) という、これは既に述べたとおり、この音源が録られた昭和44(1969)年当時の日野晧正クインテットではレギュラーだった面々であり、人気名盤アルバム「ハイノロジー」を作り上げた頃ですから、その纏まりと緊張と緩和の妙は言わずもがな、予め書かれたであろうスコアと即興演奏主義のバランスも秀逸ですよ。
ちなみに音楽性の基本となっているのは、所謂エレクトリック期のマイルス・デイビスがリアルタイムで鋭意推進していたスタイルに多くを準拠していますが、しかし随所に溢れる歌謡曲っぽいメロディ展開も含めた哀愁、あるいは調子の良さ、さらに如何にも「Like Miles」な描写の濃さは、好きな人にはたまらない世界でしょう。
それは冒頭「タイトルバック」から無伴奏でじっくりと聞かせてくれる日野晧正のトランペットが時には「死刑台」になったり、「My Funny」に接近したりする稚気こそがジャズ者には絶対に嬉しいはずで、これをバカにするツッパリなんて愚の骨頂!
素直に聴いて、楽しまなきゃ~、勿体無いですよねぇ~♪
サイケおやじは、そう断言するんですが、何故ならば、このパートが終わった次の瞬間、ドッカァ~~ンッと炸裂する「オン・ザ・コーナー (スネイク・ヒップ)」導入部のインパクトは絶大のカッコ良さ!
「タイトルバック」での思わせぶりが一転、文字どおりヒップなロックジャズを満喫出来ますが、ご存じのとおり、この曲は同時期に発売されたヒットシングル「スネイク・ヒップ」の別テイク&ロングバージョンであり、何よりも低い重心でファンキーなビートを叩き出す日野元彦のドラミングがあればこそ、エレキベースやフェンダーローズの存在感も大きな魅力になっていると思いますし、日野晧正や村岡建のアドリブも心置きなく聴けますから、ぜひとも前述したシングルバージョンとの聴き比べも楽しいところ♪♪~♪
ちなみにそれはリアルタイムでも相当に売れたらしく、サイケおやじは後追いで中古をゲットした時にも発見は容易でしたし、現在ではCD再発された「ハイノロジー」のボーナストラックにもなっていますから、その人気は不滅の証明です。
そして続く「スーパーマーケット」も、実は件のシングル盤B面に「白昼の襲撃のテーマ」として収録の曲と同じメロディ&リフを使った、これまた所謂別テイク! 躍動的なロックジャズのビート感も最高ですが、注目すべきは日野晧正のトランペットに電気的な処理が加えられ、オクターバーを使用したかのような低音と高音に分離した音の流れが、これはこれで気持良いはずで、リアルタイムではナット・アダレイ等々も好んで使っていた手法でした。
しかし、これに反感を覚えるジャズ者が少なからず存在しているのも、また事実……。そこでシングル盤のバージョンではストレートなトランペットサウンドがメインで用いられているのかもしれません。
また、あくまでもモダンジャズ専任主義の日野晧正を堪能したければ、新主流派どっぷりの「海」、如何にもの「ブルース」、ヒノテル十八番の「Alone, Alone And Alone」と似て非なる「仲間」、これまた「死刑台」な「桟橋のトランペット」や「深夜の街」、ハードボイルドな「ジョニーの船」あたりの4ビート演奏が、いずれも断片的な短さではありますが、なかなかの濃い密度ですよ。
そして決定版となるのが、オーラスの「ゲッタウェイ」で、なんとっ! 12分超繰り広げられるバリバリの先鋭モダンジャズ! じっくり構えたスタートから演奏がジワジワと盛り上がっていく展開は、時にはフリーに接近する場面も交えつつ、しかしナチュラルなモダンジャズの醍醐味が徹底追及されるんですから、たまりません♪♪~♪
と同時に、この音源集には「イン・ナ・サイレントウェイ」の強い影響をモロ出しにした「ピストル」、ソウルジャズの「電話」、R&B歌謡な「足音」という快楽性の強いトラックも入っているところが、これまたグッと惹きつけられるポイントでしょうか。サイケおやじは正直に好きだと言えます。
ということで、これは久々に血が騒いだ発掘音源集でした。
ちなみに音質は元ソースの劣化を上手くリマスター処理してあると思いますが、気になるのはステレオのミックスが右と左に泣き分かれ……。ど~せなら、モノラルミックスでも良かったと思えます。
また既に述べたとおり、各トラックの中には断片的な演奏になっているパートもありますので、そのあたりを許容出来るか否かは、それこそ十人十色の感性でしょうか。
最後になりましたが、肝心の映画「白昼の襲撃」は主演の黒沢年雄ならではの、幾分「しつっこい」青春の焦燥と情熱がイメージ的に重ねられた作品だと、個人的には思います。
ただし、これは今から遥か昔、名画座で唯1回だけ鑑賞した時の印象ですから、サイケおやじの現在の心境や観点からはズレているはずです。
しかしオフィシャルではソフト化されていない現状を鑑みて、クールビューティだった高橋紀子、尖がった岸田森、何時もながらの存在感を発揮する緑魔子……、そうした出演者達のきっちりした芝居は、劇中にもちょいと写る日野晧正クインテットの演奏にジャストミート!
というか、本当は逆なのかもしれませんが、そう思わざるをえないほど、この劇伴サントラはカッコ良くて、シビレるんですよねぇ~♪
最近は完全な煮詰まり状況のサイケおやじにとって、突破口を見出すとすれば、この「白昼の襲撃」は必需品というわけです。