■Their Last Time Out / The Dave Brubeck Quarter (Columbia / Legacy = CD)
嘗て世界で一番の人気を得ていたモダンジャズのバンドは、1960年代のデイブ・ブルーベック・カルテットに他なりませんが、これは決してサイケおやじの独断と偏見では決してなく、歴史的真実として認めざるをえないと思います。
しかし、そうした人気絶頂がまだまだ続いていた1967年末にグループが解散する事になった時の記録、つまりラストステージのライプ音源が契約レコード会社のコロムビアによって発表されなかったのは、長い間のファンの疑問と失望でありました……。
ところが最近になって、デイブ・ブルーベックが個人的に録音していたその時のプライベートテープが、なんとっ! 本人自宅の物置(?)の中から発見され、ついに最新リマスターを用いての2枚組CDとして世に出たのは大朗報♪♪~♪
録音は1967年12月26日、メンバーはもちろん黄金のカルテットであったポール・デスモンド(as)、デイブ・ブルーベック(p)、ジーン・ライト(b)、ジョー・モレロ(ds) という鉄壁の布陣です。
★Disc 1
01 Introduction
02 St. Louis Blues
03 Three To Get Ready
04 These Foolish Things
05 Cielito Lindo
06 La Paloma Azul
07 Take The“A”Train
08 Someday My Prince Will Come
★Disc 2
01 Introduction Of The Members Of The Quartet
02 Swanee River
03 I'm In A Dancing Mood
04 You Go To My Head
05 Set My People Free
06 For Drummers Only
07 Take Five
まず結論として、問題の音質面はモノラルミックスで全く普通に聴けるレベルですし、むしろドラムスとベースが前に出た録音は個人的に好ましく、また例によってタテノリ気味のピアノが打撃系として楽しめるあたりも高得点♪♪~♪
ただし、もちろんトラックによっては録音バランスにバラツキもあって、ポール・デスモンドのアルトサックスが妙に引っ込んだパートの幾つかは勿体無いかぎり……。
尤も、それは全体としては僅かですから、上記演目のとおり、「ブルーベックのヒットパレード」の楽しさは保証付きですよ♪♪~♪
そして時代的にも、特にデイブ・ブルーベックのピアノに前衛性が表出していたり、クール&ジェントリーなポール・デスモンドのアルトサックスにしても、所によってはツッコミが鋭すぎる感覚なのは、如何にもライプレコーディングの魅力だと思います。
また、あらためて述べるまでもなく、ジョー・モレロのドラミングが強烈無比の天才性を発揮し、どんなリズム設定をも無視した如くの猛烈なスイング&ドライヴ感は圧巻! 当然ながら用意されたドラムソロのパートは見事な緊張と緩和であり、また伴奏時の臨機応変なタイム感覚も流石の一言でしょう。
で、気になる「ラストステージ」という感慨については、メンバー各々が万感胸に迫る感動の名演、と書きたいところなんですが、あくまでもスピーカーの前のリスナーの感想としては、そうした気合いや気負いは感じられず、むしろ淡々とした中にプロのテクニックとフィーリングを披露した終りなき日常という感じでしょうか。殊更意識過剰にならずとも、充分に稀代のバンドの名演を楽しめる内容のはずです。
ただし、それでもひとつのコンサートステージの流れを収めたという点において、当時のクライマックスであろう終盤に置かれた「Set My People Free」がジーン・ライトのベースソロを主役にしていたり、また続く「For Drummers Only」は曲タイトルどおりにジョー・モレロのドラムソロという企画(?)は、やはり「カルテットの最後」という意思表示なんでしょうかねぇ……。
その意味でオーラスの「Take Five」は言わずもがなの大ヒット曲にして、全てのファンがお待ちかねのはずですっ!
すると、意表を突かれたというか、何時もは演奏の中盤にたっぷり披露されるはずのジョー・モレロのドラムソロが無く、それはこの直前に演じられた「For Drummers Only」から実質的に続く流れの所為なのでしょうか。とにかく皆が大好きな「Take Five」におけるポール・デスモンドとデイブ・ブルーベックのアドリブがさらにたっぷりと聴けるのは素直に嬉しいです♪♪~♪
ということで、再び録音に関しては、これがなかなかに秀逸というか、最新リマスターの技術があるにせよ、ジョー・モレロのドラムスのエッジの鋭さ、ジーン・ライトのペースワークに付随する軋みの響き、そしてデイブ・ブルーベックのピアノタッチの力感という、このカルテットならではガチガチリズムセクションの魅力が唯一無二に楽しめるのは痛快!
ですからポール・デスモンドのアルトサックスが例のソフトな音色で浮遊感溢れる表現に徹していても、実は歌心があるんだか、無いんだか? という個人的な想いを超越した存在感を示すのは当然でしょう。
そして結果的に人気絶頂だったカルテットは解散しても、ほどなくデイブ・ブルーベックは自らの新バンドを結成しますし、ポール・デスモンドも随時、それにゲスト扱いで参加していく実情を鑑みれば、これが「最後」とは言えないわけですが、そのあたりは芸能界の美しい「しきたり」として許容するのが、ファンの役割なのかもしれません。
なによりも今日、こうして「最後の音源」が世に出された以上、繰り言は潔く止めて、このCDを楽しむのが得策だと思っています。