■Do It Again / Steely Dan (abc / 東芝)
今では孤高のスティーリー・ダンの、これはブレイクのきっかけとなったシングル盤ですが、これが制作された当時はレギュラーメンバーが固定された実在のグループでした。
と書いたのも、皆様がご存じのとおり、スティーリー・ダンは後の全盛期にはドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーの旧友コンビが実質的に運営するプロジェクトに凝縮され、プロデュースを担当するゲイリー・カッツの協力を得ながら、ゲストやスタジオミュージシャンをその都度参加させる作品作りに没頭し、必然的にライヴ活動も止めてしまったからです。
もちろんそうなったのは、本来がソングライターとして裏方を希望していたドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーが、自分達の書いた曲を売り込みにいった先で理解されず、窮余の一策としてバンド活動に活路を見出した云々というのが、今日の歴史になっています。しかし最初にスティーリー・ダンを結成したのは決して主役の2人ではなく、モダンジャズをやっていたギタリストのデニー・ダイアスだったという真相もあるようです、
で、ようやくレコードデビューが決まった1972年当時のメンバーはドナルド・フェイゲン(Key,vo)、ウォルター・ベッカー(g,b)、デニー・ダイアス(g)、ジェフ・スカンク・バクスター(g)、ジム・ホッダー(ds,per)、デイヴィッド・パーマー(vo,per) の6人組でした。
ただし今となっては、実際のライプの現場には女性コーラス隊や助っ人ミュージシャンが参加していたという事実も明らかになっているのと同じく、スティーリー・ダンという実態があったバンドのメンバーも各々が、他のグループや歌手をバックアップする仕事をやっており、これは最初っから、ある種のプロジェクトだったことが明白かと思います。
ですから、既にデビュー期から作られた楽曲には、従来のロックやポップスには感じられなかった、どこかミョウチキリンな味わいが色濃く滲み、その1972年当時、業界の流行は南部指向だったのとは逆に都会的なジャズっぽさ、そして変態コードワークと摩訶不思議な歌詞で作られた意味深なメロディ……。
そんなスティーリー・ダンならではの音楽が、デビューから今日まで普遍だったのは凄いところです。
しかし、そんな理屈を最初っから分かっていたサイケおやじでは当然なく、実は昭和48(1973)年に我国で発売された本日ご紹介のシングル曲をラジオで聴いた時も、てっきりサンタナみたいなランテロックのバンドがスティーリー・ダンだと思い込んでいたのです。
実際、イントロからチャカポコ、シーチャッカ♪♪~♪ 快適に刻まれるラテンビートの心地良さは絶品ですし、浮遊感がありながらフックの効いた曲メロの耳馴染みの不思議さは、ちょっと中毒症状を呼び覚ますほどでした。そして買ってきたレコードジャケットにも、はっきり「サンタナ・タッチ」と書かれていたのですからっ!?!
つまり完全な勘違いが出会いのヒットに結びついたというか、しかし職業作家を目指していたドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーにとっては、まさに思うツボだったんじゃないでしょうか。
リアルタイムでは聞けなかった、この曲を含むデビューLP「キャント・バイ・ザ・スリル」は全然、ラテンロックのアルバムではなく、むしろ後に全開となるスタジオワーク専任のスティーリー・ダン節が原石のまま収められている感じです。
そしてそれは決して未完成ではなく、むしろ現実的なバンドサウンドで作られたという点からしても、実に自然体の魅力に溢れているんですねぇ~♪ その意味で躍動感と奇妙なクールさを併せ持った、この「Do It Again」がヒットしたのも必然だったでしょう。
ちなみに前述したとおり、初期スティーリー・ダンのメンバーは、例えばジェフ・スカンク・バクスターが1974年頃にドゥービー・ブラザーズへ正式加入し、ついでにスティーリー・ダンを手伝っていたマイケル・マクドナルド(key,vo) も連れていったとか、あるいはジム・ホッダーがサミー・ヘイガーのバンドに引き抜かれたり、さらにデイヴィッド・パーマーは幾つかの新バンドを作る……等々、確実に1970年代を生き抜いているのですが、何故か凄腕ギタリストのデニー・ダイアスだけが消息不明なのは気になります。
ということで、全くの勘違いからスティーリー・ダンに出会ったサイケおやじは、紆余曲折の末にそのジャズっぽさの虜となりましたが、実はライプ活動なんか全盛期にはやっていなかったという現実にも驚きましたですねぇ。
まあ、最近ではライプの現場に復帰しているドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーがスティーリー・ダンを名乗ることに異存はありませんが、残念ながらそこには初期のリアルなバンドサウンドは感じられません……。
もちろん、それで良しとするファンが大多数なのは承知の上で、私は勘違いで知ったスティーリー・ダンが大好き! と、愛の告白をしておきます。