ブラウン政権のイギリスが、金融危機への国際的な対策を打つ際の主導権を、失敗ばかりしているブッシュ政権のアメリカから奪取しようとする動きが始まっている。10月15日、英による画策が、ひとつの形として浮上した。英が主導するEUが、世界に向かって「国際金融体制を安定させるための、第2のブレトンウッズ会議を早急に開こう」と呼びかけたのである。
この会議は、G7(米英独仏伊日加)+BRIC(露中印伯)+その他の主要国(南アフリカ、サウジアラビア、メキシコなど)が、早ければ11月中に、おそらく米ニューヨークに集まって、金融機関に対する国際的な規制強化などについて話し合い、IMFと世界銀行という、1944年の「ブレトンウッズ会議」によって作られた国際金融機関の体制見直しや、潰れかけている国際貿易交渉であるWTOのドーハラウンドの再交渉体制などを決めようとするものだ。すでにアメリカ、ロシア、日本などが、EUの提唱する「第2ブレトンウッズ」の会議を、拡大G8会議として開くことに同意したと報じられている。
報じられていることだけで判断すると、この拡大G8会議は、国際的な銀行規制という、今の金融危機の解決策としては必要だが、かなり専門的な問題のみを扱う会議であり、先日開かれたG7金融会議の屋上屋を重ねるだけの、大したことない会議に見える。第2次大戦後の世界経済体制の根幹となるドル本位制などを決めた1944年のブレトンウッズ会議と比べると、とてもスケールが小さいように見える。
しかし、周辺の関係者の発言をつき合わせつつ「ひょっとしてドルや米国債は、すでに非常に危険な状態にあるのではないか」と思える国際金融の現状と合わせて考えると、米国の経済覇権を決定したブレトンウッズ会議と同程度に重要な会議、おそらく米経済覇権の崩壊後の世界体制について決めようとする会議が、これから開かれるのではないかと思えてくる。
▼ブレトンウッズ2の前提に見えるドル破綻
重要な点の一つは、ロシアが、英主導の第2ブレトンウッズ会議の開催に賛成していることである。今のロシアと英国は、仮想敵どうしである。露は、対露包囲網を作りたがる米英中心の世界体制が崩壊し、露中などBRIC諸国が、アジアやアフリカ、中南米などの発展途上国を率いて、世界を安定させるという非米同盟的な展開を望んでいる。金融破綻して自滅しかけている米英を、露が助けることは、露が敵視する米英中心体制を延命させてしまう。露政府は、ほくそ笑みながら米英の自滅を眺めているのを好むはずだ。
しかし英が、IMFや国連を改革し、露の満足するような非米的な新世界秩序を作ることに同意するのなら、話は別だ。今回、英が主導するEUのブレトンウッズ2構想は、G7とBRICが対等の立場で参加する形になっている。EU議長の仏サルコジ大統領は、今後の国際金融体制を作る際には、先進国以外の諸国の利害も尊重せねばならないと表明している。露としては、他のBRICや途上国を率いて、英が率いる先進諸国と対等に論争し、その上で新たな世界体制が作られるなら、英米中心体制を壊せると考え、ブレトンウッズ2会議の開催に同意したのだろう。
ロシアはここ数年「上海協力機構」を通じて中国との戦略的な関係を強化し、今春には中国の他、インドとブラジルも呼んで、初めてのBRICサミットも開いている。ロシアは、イランやベネズエラなど、反米主義を掲げて地域的な台頭を目指している中規模諸国との関係も密接にしている。今のロシアは、非米・反米的な発展途上国をとりまとめられる国際ネットワークを持っている。
このことは同時に、既存の米英中心体制は金融危機の結果、もはや維持できなくなっていると、英政府が自覚していることを意味している。英は、米英中心体制が維持できる限り、ロシアや反米的な途上国群を入れた、国際政治体制の今後を決める国際会議など開きたくない。金融危機によってどんどん立場が悪くなる米英は、ロシアや反米諸国に譲歩せねばならないからだ。
しかし、もはやドルや米国債の崩壊が不可避な状態だと英が判断しているのなら、戦略は変わってくる。英の国家戦略は、世界に対して黒幕的に影響力を行使し続けることである。自滅主義の米とともに破綻していくつもりはない。ドルや米国債など、米覇権の崩壊が不可避であるなら、いつまでも米英中心主義にこだわるより、次の世界体制である多極型の世界体制作りに創設期から参加して、次の体制の「胴元」に転身した方が得策だ。
英国は、第一次世界大戦まで覇権国だったが、その戦略は、欧州の他のライバル的な大国どうしを競わせて漁夫の利を得る「均衡戦略(バランス・オブ・パワー)」であり、露骨な軍事対決を好まず、諜報や謀略によってライバルの力を削ぐことを好む、隠然とした黒幕的な覇権戦略だった。今後、BRICや主要途上国の力が強くなって世界が多極化しても、BRIC4カ国内部の喧嘩を誘発して漁夫の利を得るなど、英国の黒幕的な均衡戦略は十分に成り立ちうる(敵対的な相手が増えて大変だが)。
▼多極化に協力して黒幕維持
金融危機は、先進諸国がG7会議を開いて対策を講じても緩和されず、米英における銀行間融資市場は凍結状態が続き、米欧日の中央銀行が無制限のドル供給を行うことで、何とか回っている状態だ。米政府の7000億ドルの救済策も効かず、G7の国際協調の救済策も効かないまま、金融システムの危機が続いている。
今のところ、ドルの諸通貨に対する為替は、それほど下落していない。むしろ米国債は、社債や株式のリスク高騰を嫌気する人々の購入によって値が上がっている。しかし、すでに米政府の金融界への公金投入の総枠は、7千億ドルの米政府救済策の7倍にあたる5兆ドルに急拡大している。
救済策が効かないまま金融危機が深化しきそうな中で、米政府の財政赤字の急拡大は必至で、いずれ米国債は買い手が足りなくなり、下落(長期金利の高騰)する。英政府が、ロシアやBRICを招く形でブレトンウッズ2を開くことを提唱したことは、英がドルと米国債の破綻を予期し、米覇権の終焉を覚悟したことを意味すると、私には思える。
前回の記事で、世界銀行のゼーリック総裁が「G7はもはや機能しうる組織ではない」と宣言したことは、英が露などBRICを誘って新世界秩序のためのブレトンウッズ2会議を開こうとしていることと関係している。世界銀行では今後、これまで米国人に限定されていた総裁職を、他の国籍者にも開放する方向で検討しており、この検討会の中心人物は、英政府の代表(ダグラス・アレキサンダー英開発相)である。
ロシアのメドベージェフ大統領は、IMF・世銀やWTOを改革するのではなく、それらに替わる別の組織を作ることを提唱している。IMF・世銀、WTOなどは、いずれも米英中心体制の一翼である。英米中心・先進国優先の体制が、組織の骨の髄まで染みわたっており、かなり改革しても、英米が途上国を支配する構造は壊せない。だからロシアは、IMF・世銀、WTOを放棄して、別の組織を作ることを望んでいる。
だが、ロシアやBRIC、途上国群には、自分たちだけで国際機関を作るノウハウが 少ない。結局のところ、ベルサイユ体制以来の90年間の現代世界の国際政治の諸機関は、すべて英国の系列の人々が画策して作ったものである。途上国にとって、謀略的な英を除外した国際機関の創設は、理想的であるが、現実的でない。
ロシアは今のところ、IMF・世銀など既存組織の改革だけでは不透明で不十分だ、と言っている。しかし、すでに英は、世界銀行の総裁選びの体制を、途上国好みのものに改革することを率先してやっている。「これなら、英に任せても良いか」と、途上国やBRIC諸国に思わせ、ロシアの反対を緩和させるのが、英の戦略だろう。英は、そうやって新世界秩序の中枢に食い込むことで、世界の黒幕としての機能を保持し、米国は破綻しても、英国はなぜか破綻しない(破綻しても軽度ですむ)という展開を目指しているのだろう (ネット虫)
この会議は、G7(米英独仏伊日加)+BRIC(露中印伯)+その他の主要国(南アフリカ、サウジアラビア、メキシコなど)が、早ければ11月中に、おそらく米ニューヨークに集まって、金融機関に対する国際的な規制強化などについて話し合い、IMFと世界銀行という、1944年の「ブレトンウッズ会議」によって作られた国際金融機関の体制見直しや、潰れかけている国際貿易交渉であるWTOのドーハラウンドの再交渉体制などを決めようとするものだ。すでにアメリカ、ロシア、日本などが、EUの提唱する「第2ブレトンウッズ」の会議を、拡大G8会議として開くことに同意したと報じられている。
報じられていることだけで判断すると、この拡大G8会議は、国際的な銀行規制という、今の金融危機の解決策としては必要だが、かなり専門的な問題のみを扱う会議であり、先日開かれたG7金融会議の屋上屋を重ねるだけの、大したことない会議に見える。第2次大戦後の世界経済体制の根幹となるドル本位制などを決めた1944年のブレトンウッズ会議と比べると、とてもスケールが小さいように見える。
しかし、周辺の関係者の発言をつき合わせつつ「ひょっとしてドルや米国債は、すでに非常に危険な状態にあるのではないか」と思える国際金融の現状と合わせて考えると、米国の経済覇権を決定したブレトンウッズ会議と同程度に重要な会議、おそらく米経済覇権の崩壊後の世界体制について決めようとする会議が、これから開かれるのではないかと思えてくる。
▼ブレトンウッズ2の前提に見えるドル破綻
重要な点の一つは、ロシアが、英主導の第2ブレトンウッズ会議の開催に賛成していることである。今のロシアと英国は、仮想敵どうしである。露は、対露包囲網を作りたがる米英中心の世界体制が崩壊し、露中などBRIC諸国が、アジアやアフリカ、中南米などの発展途上国を率いて、世界を安定させるという非米同盟的な展開を望んでいる。金融破綻して自滅しかけている米英を、露が助けることは、露が敵視する米英中心体制を延命させてしまう。露政府は、ほくそ笑みながら米英の自滅を眺めているのを好むはずだ。
しかし英が、IMFや国連を改革し、露の満足するような非米的な新世界秩序を作ることに同意するのなら、話は別だ。今回、英が主導するEUのブレトンウッズ2構想は、G7とBRICが対等の立場で参加する形になっている。EU議長の仏サルコジ大統領は、今後の国際金融体制を作る際には、先進国以外の諸国の利害も尊重せねばならないと表明している。露としては、他のBRICや途上国を率いて、英が率いる先進諸国と対等に論争し、その上で新たな世界体制が作られるなら、英米中心体制を壊せると考え、ブレトンウッズ2会議の開催に同意したのだろう。
ロシアはここ数年「上海協力機構」を通じて中国との戦略的な関係を強化し、今春には中国の他、インドとブラジルも呼んで、初めてのBRICサミットも開いている。ロシアは、イランやベネズエラなど、反米主義を掲げて地域的な台頭を目指している中規模諸国との関係も密接にしている。今のロシアは、非米・反米的な発展途上国をとりまとめられる国際ネットワークを持っている。
このことは同時に、既存の米英中心体制は金融危機の結果、もはや維持できなくなっていると、英政府が自覚していることを意味している。英は、米英中心体制が維持できる限り、ロシアや反米的な途上国群を入れた、国際政治体制の今後を決める国際会議など開きたくない。金融危機によってどんどん立場が悪くなる米英は、ロシアや反米諸国に譲歩せねばならないからだ。
しかし、もはやドルや米国債の崩壊が不可避な状態だと英が判断しているのなら、戦略は変わってくる。英の国家戦略は、世界に対して黒幕的に影響力を行使し続けることである。自滅主義の米とともに破綻していくつもりはない。ドルや米国債など、米覇権の崩壊が不可避であるなら、いつまでも米英中心主義にこだわるより、次の世界体制である多極型の世界体制作りに創設期から参加して、次の体制の「胴元」に転身した方が得策だ。
英国は、第一次世界大戦まで覇権国だったが、その戦略は、欧州の他のライバル的な大国どうしを競わせて漁夫の利を得る「均衡戦略(バランス・オブ・パワー)」であり、露骨な軍事対決を好まず、諜報や謀略によってライバルの力を削ぐことを好む、隠然とした黒幕的な覇権戦略だった。今後、BRICや主要途上国の力が強くなって世界が多極化しても、BRIC4カ国内部の喧嘩を誘発して漁夫の利を得るなど、英国の黒幕的な均衡戦略は十分に成り立ちうる(敵対的な相手が増えて大変だが)。
▼多極化に協力して黒幕維持
金融危機は、先進諸国がG7会議を開いて対策を講じても緩和されず、米英における銀行間融資市場は凍結状態が続き、米欧日の中央銀行が無制限のドル供給を行うことで、何とか回っている状態だ。米政府の7000億ドルの救済策も効かず、G7の国際協調の救済策も効かないまま、金融システムの危機が続いている。
今のところ、ドルの諸通貨に対する為替は、それほど下落していない。むしろ米国債は、社債や株式のリスク高騰を嫌気する人々の購入によって値が上がっている。しかし、すでに米政府の金融界への公金投入の総枠は、7千億ドルの米政府救済策の7倍にあたる5兆ドルに急拡大している。
救済策が効かないまま金融危機が深化しきそうな中で、米政府の財政赤字の急拡大は必至で、いずれ米国債は買い手が足りなくなり、下落(長期金利の高騰)する。英政府が、ロシアやBRICを招く形でブレトンウッズ2を開くことを提唱したことは、英がドルと米国債の破綻を予期し、米覇権の終焉を覚悟したことを意味すると、私には思える。
前回の記事で、世界銀行のゼーリック総裁が「G7はもはや機能しうる組織ではない」と宣言したことは、英が露などBRICを誘って新世界秩序のためのブレトンウッズ2会議を開こうとしていることと関係している。世界銀行では今後、これまで米国人に限定されていた総裁職を、他の国籍者にも開放する方向で検討しており、この検討会の中心人物は、英政府の代表(ダグラス・アレキサンダー英開発相)である。
ロシアのメドベージェフ大統領は、IMF・世銀やWTOを改革するのではなく、それらに替わる別の組織を作ることを提唱している。IMF・世銀、WTOなどは、いずれも米英中心体制の一翼である。英米中心・先進国優先の体制が、組織の骨の髄まで染みわたっており、かなり改革しても、英米が途上国を支配する構造は壊せない。だからロシアは、IMF・世銀、WTOを放棄して、別の組織を作ることを望んでいる。
だが、ロシアやBRIC、途上国群には、自分たちだけで国際機関を作るノウハウが 少ない。結局のところ、ベルサイユ体制以来の90年間の現代世界の国際政治の諸機関は、すべて英国の系列の人々が画策して作ったものである。途上国にとって、謀略的な英を除外した国際機関の創設は、理想的であるが、現実的でない。
ロシアは今のところ、IMF・世銀など既存組織の改革だけでは不透明で不十分だ、と言っている。しかし、すでに英は、世界銀行の総裁選びの体制を、途上国好みのものに改革することを率先してやっている。「これなら、英に任せても良いか」と、途上国やBRIC諸国に思わせ、ロシアの反対を緩和させるのが、英の戦略だろう。英は、そうやって新世界秩序の中枢に食い込むことで、世界の黒幕としての機能を保持し、米国は破綻しても、英国はなぜか破綻しない(破綻しても軽度ですむ)という展開を目指しているのだろう (ネット虫)