随筆 家族内孤独 S・Yさんの作品です
今朝も隣家の洗濯物がまだ干されていない。そんなこといちいち気に掛けなくてもと思いながらもつい見てしまう。
隣家の嫁である月子さんは朝が早い。私が起き出す六時半ごろには彼女は大人数の家族の洗濯物を、二階のベランダや庭先いっぱいに干し終わっている。
それらがないということは、今朝も孫さんの世話で居ないのかな?
このところ頻繁に次男の家へ手伝いに行く月子さん。昼近くに帰宅後、急いで洗濯物を干している姿をよく見かける。なぜ彼女の夫は家事を手伝わないのか。月子さんは遊びに行っているわけじゃないのにと、よそ事ながら腹立たしい。
数年前、彼女の夫の父親と障害のあった弟は亡くなったが、それまでは三十代の引ぎ寵もり息子三人と舅姑らを含めて大人八人の世話を一手に一人でこなしていた。
しばらくして息子の一人、次男が結婚をしたようで孫が二人いるという。孫は四歳の女児と、二歳半の男の子で、この子は生まれながらに心臓に欠陥がある難病だとか。先日も四回目の手術をしたそうである。コロナ禍のいま、付き添いは子どもの母親のみで、交代もできない。月子さんは次男の孫娘の世話に通う日々が続く。
三ヵ月ほど前、夏の暑い日だった。郵便受けに近々工事をするという建築屋のビラが入っていた。よく見るとなんと隣家ではないか。工事期間は二ヵ月とある。古い家屋だから耐震補強の工事でもするのか。それにしても一言も挨拶はない。隣近所に騒音や工事業者の車が出入りして迷惑をかけることはお構いなしである。こんなことは以前にも何度もあった。隣家の倉庫の解体工事でわが家の壁が壊されたことがあった。このときわが家は新築したばかり。さすがに文句を言ったが、解体業者が謝っただけで、その場に居合わせた隣家の人は皆素知らぬ顔であった。
今回も月子さんは夫から何も聞かされず、家の何をやるのか知らないと言う。隣家は表通りからは塀に囲まれていて、ベランダや広い庭などはわが家からしか見えない。軒下から錆びて傾ぎ朽ちたトタン屋根、そこから伸びて庭に長く垂れ下がった雨どいが見るからに危なっかしい。月子さんも困っていた。私はやっと直すのかと少し安堵した。
ところが工事は玄関の屋根瓦の一部と家の外壁塗装のみで耐震補強も無かった。驚いたことに雨どいや傾いたトタン屋根は今だにそのままだ。外部のみ綺麗にしたのだった。 「物干し場に屋根をつけてやればいいのに。出かけたとき雨を気にしなくていいから月子さん助かるのになあ」 私の夫が言った。彼もよそ事ながら気になるようだ。