僕には2人の姉弟の孫がいて、文字通り「スープの冷めぬ距離」に住んでいる。その5年生の女孫ハズは、運動会ではずっとリレー選手。その彼女が先日、体操授業での走り幅跳びでも男子も加えて学年2番だと教えてくれた。そんなハズが先日、僕にこっそりと変なことを言う。
「(弟で1年生の)セイは、自分が凄く速く走れることを知らんのだよ。面白いでしょう」
この話に興味を持って詳しく聞いていくと、こういうことと分かった。
「2年生からリレー選手になったハズの1年生の時は、50mが11秒台だった。ところが、1年生のセイが先日9秒台を出したと学童保育のある1年生がハズに教えてくれた。これは、ものすごく速い。だけど、セイはこのことを家庭内などでも全く何も語らなかったりして、全く無頓着である。自分の力を知らないのだ」
僕には大変面白くて、興味深すぎる話と思えた。競争心が強すぎるハズにとっては、これに無頓着なセイが全く理解できないという、そんな対照に興味が湧いたのである。ちなみに、2人にランニングを教えたのは僕で、ハズが幼い頃に凄く良い「子どもランニング指導本」を見つけたことによる成果が2人に顕現しているという話でもあったことだし。
ところで、この2人の水泳教室でも、ちょっと前に面白いあるできごとがあった。セイが5歳初めから通っている水泳教室を「もう辞める」と言う。理由を聞くと「進級テストが嫌だ」と語って、「あれが怖い」とまで表現して見せる。1年生初めで25mクロール卒業寸前という良い線まで行っていたのだから、僕はもうびっくりしてしまった。進級テスト前などに2人の水泳も指導してきた僕は娘と話し合って、辞めさせることにした。この時、この珍しいような性格は一体どういうものだろうかなどと、あれこれと思い巡らしていたものだ。
その時から約2か月が過ぎたある秋の日、歯医者に連れて行くためにセイを学童保育に迎えに行った車の中で、こんな会話が自然に展開されていく。
「凄い汗だね」、と僕が一生懸命タオルで拭いてあげる。特に、頭髪の下がもうぐっしょりだったのだ。
「(学童保育前の公園で)鬼ごっこやってたんだね?」。「うん」。「セイちゃん速いから、捕まらんでしょ?」。「うん。ちっとも面白くない」。「どうして?」。
「鬼にしてくれんから。鬼やりたいというと、3年生が『お前はやらんでも良い』と言う」
「おかしいよな。何で、3年生がそう言うのかな?」
「3年生も捕まるからでしょ」
ここまで来て、彼を巡る鬼ごっこの光景がほぼ見えてきた気がした。鬼でないときは、誰も捕まえに来ない。かと言って、鬼にもなれない。その理由は、鬼ごっこグループの最上級生・3年生が威厳を示せないからなのか。これじゃ、確かに面白くないよな。
と、ここまでの話を、セイちゃんは実に淡々と語るのである。ハズのようには、全く誇らしげとか、自慢げでもなく。兄弟姉妹でも、こんなに性格が違うんだ! こんな彼が、随分手取り足取り教えてあげても自転車はまだ一人では乗れない拙さであるのが、また面白い。1年生のハズは、すでに僕と長距離サイクリングをやっていたのだから。彼の運動は間違いなく、力が入りすぎる癖があるのだろう。どんなスポーツでも脱力する術はとても大切で、以降はこれを教えないといけないな。