***** 年代物のベースのネックを表紙にした電子書籍「ドレミの科学」.オーディオファイル・ビデオファイルを駆使して,ドレミ...を物理の視点から解明する試みでしたが,「視て聴くドレミ」に姿を変え,2013 年に大阪大学出版会から刊行されました.よろしくお願いします.*****
コントラバスはクラシックでは地味な楽器である.ジャズでは少しは目立つが,やはり地味な楽器だった.これがスコット・ラファロとか,ジャコ・パストリアスとかのおかげで,派手な楽器の仲間入りをした.彼らのプレイの特徴のひとつは,高い音域での速弾きだろう.
前にもこのブログに書いたのだが,信号処理の不確定性関係は,f を周波数,t を時刻として
ΔtΔf ≧ 1/(4π)
である.
音楽で.Δt を音符の長さ, Δf を音が跳ぶ高さと読み替えると,高音域では Δf が大きくなるから,Δt は小さくても良い,すなわちメロディは小刻みに動いても良い.しかし低音では逆に Δf 小だから,Δt 大,すなわちゆっくり弾かなければだめということになる.
この式は,周波数は時間の逆数という定理から考えれば,定性的には当然だが,定量的には?
つぎのような考察は正しいのだろうか.
ベースの最低音は 40Hz あたり.ここで 10Hz くらい(だいたい長3度に相当)音を上下させるとすると (Δf=10Hz とすると),Δt は約0.01秒,すなわち 1 秒に 100 回あたりが制限速度となる.ちなみに,四分音符=300 という凄く速いテンポでは,四分音符の Δt は0.2秒である.
これは純粋な物理現象だが,ヒトの聴覚は低周波数領域では感度が悪くなる.ベースのような低音域では,バイオリン演奏に比べて音程が悪くても分からない.
実際のベースソロは上記数値よりもっと高い音域でおこなわれるが,そうでなければ余裕を持って鑑賞できないということだろうか.
似たような話題として,サンプリング定理 (標本化定理) がある.オーディオ CD などが説明のときに引き合いに出される.
AD 変換の際の標本化間隔 T は,対象とする現象が最大周波数 F なら
FT < 1/2
とすべし,というもの.この手の式の右辺が 1/(4π) だったり 1/2 だったりするのはなぜ,等と考えるのは暇つぶしにはよさそう.
量子力学の不確定性関係は,hをプランクの定数,xを位置,pを運動量,Eをエネルギーとすれば
ΔpΔx ≧ h/(4π)
ΔEΔt ≧ h/(4π)
このふたつの式は p を使うか E を使うかというだけで,同じことである.
最初の信号処理の不確定性原理の式を,アインシュタインの式
E = hf
を使って変形するとこの量子力学の式になる.