Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

ベートーヴェン捏造

2019-03-26 10:01:49 | 読書
かげはら史帆「ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく」柏書房(2018/10).

ベートーヴエンの楽曲は捏造されたものだった,という小説なら面白かろうと思ったが,そんなことはなかった.
表紙イラスト左がベートーヴェン,右がシンドラー,彼はベートーヴェンの秘書 (おしかけ volunteer 秘書,だから無給) で,この本の主人公.本の要点はシンドラーの書いたベートーヴェンの伝記が嘘のかたまりだということ.
もとは著者の修士論文だそうだが,こちらは週刊誌の記事みたいな文章.序曲 - 第1幕 - 間奏曲 - バックステージ - 第2幕...という構成.

聴力を失ったベートーヴェンが頼るのは「会話帳」であり,シンドラーはこの会話帳を一次資料と主張する.しかし会話帳の「筆談」に残されているのはベートーヴェンの話し相手,例えばシンドラーの言だけ.ベートーヴェン自身はそれを読んで口頭で返し,それに対してまた相手が会話帳に書く...という繰り返しで会話が続く.この「会話帳」に秘書シンドラーの手蹟が残るのは当然で,ここにあとから何を書き加えてもわからないはずであった.しかし改ざんには年代の矛盾,後年にしかありえない新しい語法の使用など,間抜けなミスが多かった.1970年代以降,犯罪学の専門家も動員されて会話帳改ざん箇所が研究されたそうだ.

第5に関するベートーヴェンの「運命が扉を開く」という言葉はシンドラーの捏造らしい.この本の著者は,シンドラーが交響曲第8番第2楽章からタタタ・カノンを抜粋しておいて,このカノンはベートーヴェンの作で,ベートーヴェンはこれを第8に転用したと主張したことの方が,罪が深いと言っている.

僕個人としては,ベートーヴェンの音楽そのものは存在しつづけるのだから,ベートーヴェンの人生とかそれをどう後世に伝えるかとかは小さな問題と思う.
シンドラーはベートーヴェンのとりまきで,ベートーヴェン自身はシンドラーをうざったく思っていたらしい.捏造の主目的は他のとりまきの誹謗中傷.というわけで,これは面白いが楽しい本ではない.しかしシンドラーの嘘を排除したベートーヴェン伝に何が残るのかは,まだよくわかっていない.

アンナ・マグダレーナ・バッハ「バッハの思い出」もじつは贋作...ということを思い出した.

図書館で借りました.
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