Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

名探偵のままでいて

2024-04-18 09:06:41 | 読書
小西マサテル「名探偵のままでいて」宝島社 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ 2024/4).単行本は 2023/1.

*****シリーズ累計20万部突破
第 21 回 (2023 年)『このミステリーがすごい!』大賞受賞作.
「密室殺人」「人間消失」「幽霊騒動」…
孫娘の持ち込むさまざまな謎を「認知症の祖父」が鮮やかに解き明かす!*****

『このミス』大賞はミステリー小説の新人賞.『このミステリーがすごい!』そのものは,宝島社が『別冊宝島』として発行している,ミステリー小説のブック・ランキングを中心とするガイドブックである.

この作品で安楽椅子探偵役をつとめる祖父は,レビー小体型認知症.これはアルツハイマー型認知症 50% に次いで,20% を占める2番目に多い認知症だそうだ.認知機能が良いときと悪いときの差が大きく,人・動物などの幻視が特徴.この作品でも祖父は娘が定期的にやってきて,話していくと信じているが, 娘 (すなわちヒロインの母) は二十数年前に亡くなっている.

しかしこの認知症の特徴がこの作品で十分に生かされているとは思えない.調子が良く冴えているときに,祖父が推理能力を発揮するだけである.彼の幻視・妄想により,作品にちょこっと登場する青い虎とかカワウソとかが,訳がわからないうちに事件の解明を導くというストーリーにしたほうが,不真面目でいいと思う.でもライトノベルの限界を越えるかな.

第1章 - 第 5 章 + 終章 の6章構成.第1章は煎じ詰めれば妻が夫の死後古書を売ると言う当たり前に,ヒロイン (孫娘) が気づかないというお粗末.その後も,彼女が持ち込んだ問題に祖父が予備知識を持っていたりで,ミステリとしては頼りない部分もある.
しかし章ごとに長くなり,内容も尻上がりに充実する.

祖父はもと小学校の校長.彼女も現在は小学校教諭.日常の謎だけが題材と思っていたら,次第に深刻になる.連作形式で,第1話,第2話... とするべきと思って読み進むと,第1章,第2章... とされた理由がわかる.祖父ひとり孫ひとりとなった事情もストーリーに使われる.
さりげなく叙述トリックが,複数回使われたりする.
ヒロインをめぐる三角関係がうやむやのままに終わるが,ここに「女か虎か」が示唆される.

碑文谷,弘明寺という地名になじみがあり, 16 トンにとっては,ご当地ミステリっぽくもあった.


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