Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

日の丸原爆と戦った男たち

2024-04-06 20:42:33 | 読書
蛍ヒカル「日の丸原爆と戦った男たち」はるかぜ書房 (2023/8).

出版社の HP より*****
「日の丸原爆製造計画」の真実 
太平洋戦争中、理化学研究所の科学者たちは、陸軍からの命令にどう対処したのか? 彼らは、本当に原爆を製造しようとしていたのか。 これまで世に出なかった新事実に基づくノンフィクション小説。戦中、戦後、日本の科学者たちは、陸軍やGHQ の圧力 に屈することなく、祖国の将来を見据えた基礎研究を続けたことが記されている。

著者:蛍ヒカル
1945 年10 月1日、北海道に生まれる。北海道大学・同大学院博士課程理学研究科修了後、国立旭川医科大学にて化学教員として勤務 (理学博士)。 この間、蛍光に関する研究論文を、アメリカの学会誌等に多数発表。2011 年定年退職。2012 年「桃源の島」で第36回北海道文学賞大賞を受賞。『八月のイコン』(2017 年)、『日記』(2018年)、『トキシン』(2020 年) 他著書多数。*****

仁科芳雄をモデルとする仁田芳郎の理研での原爆研究を描いた小説.武谷三男,木越邦彦などが登場するが,名前は変えてある.16 トンはこのおふたりに接したことがある.とくに武谷先生が実名だったら,ラブシーンを読んで戸惑ったに違いない.

通俗小説のようにあっさり読めた.美化すれば上記 CM のように「陸軍祖国の将来を見据えた基礎研究を続けた」ことになるが,仁科の計算は本文にあるように「ウランもないのに原爆が作れるわけがない; でもこれを隠れ蓑に加速器 (なぜかここではサイクロトロンという名詞は使われない) を用いた基礎研究は続けられる; 研究員は徴兵を免れる」ということだっただろう.オッペンハイマーに比べれば彼はずっと気楽だったかもしれない.

第3章まであるが,第1章終盤でウラン濃縮装置が空襲で破壊され,原爆研究は終わってしまう.第2章のヒロシマ・ナガサキの被曝描写には迫力がある.第3章ではサイクロトロンは破壊され,理研が解体させられ,仁科は株式会社科研を運営し,ペニシリン,ストレプトマイシンを量産するが,癌で逝去する.その後「日の丸原爆の復活」の項で吉田内閣は原子力利用に舵をとり,武谷らにとっては「新たなる戦い」が始まる.

仁科は研究の出発点では,原爆は別とすれば原子力の利用は悪いことではないと考えていたようだ.その後 日本には幾多の原子力発電所が建設され,東日本大震災の際には福島第一原発でメルトダウンが起きた.もちろんこうした展開は本書の登場人物たちの知るところではないのだが,著者も第3章で特に意見を述べていない.

蛍ヒカルという著者名につられ,図書館で借用.
タイトルについて : 「... と戦った」はすでに書いたように誇大広告.「... 男たち」という体言止めはジェンダー論が盛んな咋今,いかがなものか.
コメント
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