Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

「閑な老人」

2023-11-13 20:59:41 | 読書
尾崎 一雄,荻原 魚雷 編「新編 閑な老人」中央公論新社 (中公文庫 2022/2).

鹿又 (かのまた) きょうこ による猫の下半身のカバー画に惹かれ,図書館でジャケ借り.絵中の背中のバッタ ? はサービス過剰かなと思う.本文中に猫が登場したかどうかは記憶にない.

honto の商品説明*****
放蕩と極貧生活を送った元破滅型文学青年。歳を重ねてからは、草木を愛で散歩を趣味とし、寒くなれば冬眠する。人はいつ死ぬかわからない、だからこそ生きているだけで面白い - - 生死の境を彷徨い「生存五ケ年計画」を経て辿り着いたこの境地。「暢気眼鏡」の作家が“閑な老人”になるまでをつづった、文庫オリジナル作品集。*****

同じ編者による「閑な老人」はハッピーな短編集だそうだが,「新編...」はそのハッピーな境地に至るまでの軌跡が解るように編集されたとのこと.

I, II に分かれていて,I は小説らしい.著者とおぼしき主人公が緒方という名前で登場する.大崎五郎になることもある.II は雑文的で多少硬いものもある.
解説に「私小説は病気と貧乏のはなしばかりと誤解している人は少なくない」とあるが,16 トンも その少なくないうちのひとり.病気貧乏派の典型は上林 暁だと思うが,この上林の天然ぶりを描いた II 中の「戦友上林暁」がおもしろかった.

解説によれば私小説家には自由奔放な破滅型と,自己の完成を目指す調和型とがあり,尾崎は後者だそうだ.その私小説だって病気と貧乏がテーマだが,どこかユーモラス.病気で痩せたところを見た女の子が「お父さんにお尻がなくなった」と言ったと,複数回書いてある.16 トンも痩せたらお尻がなくなり,椅子に座るのが辛かった.「腿から下でいちばん太いのは膝小僧」も,そのとおり.

1941 年の「相変わらず」では「私は人間というものを信用している.人間のより集まりである社会,社会生活,また人生というものを信じている.人間は好い,人生は好い,社会は好い,と云う気持ちである」と書いている.しかし 1982 年の「核兵器 - 素人の心配」ではトーンが変わっている.辰野隆が引用したセナンクウルの言がここで引用されているのを,そのまま書き写すと

『人間の生命は果敢ない.それならそれで宜しい.然し,我等をして反抗しつつ死なしめよ.而して絶滅が我等の定命であるなら,少なくとも我等をして,之を是認するが如き行為をなさざらしめよ』

これが本書ではいちばん新しい,しかし半世紀前の文章である.

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