Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

芥川賞受賞作「バリ山行」

2024-08-24 09:56:24 | 読書

文春9月号には芥川賞受賞2作の全文掲載.村上裕二の表紙は『聖徳太子 - 晴天へ -  」.
受賞作の一編のタイトルで,てっきりバリ島で山に登る内容かと思った.ちなみに写真右はバリ アグン山 3014m

閑話休題.

著者は松永K三蔵.ミドルネーム K は家族・親族に多いファーストネームのイニシャルで「力を借りているので外せないと思いました」.バリ山行の「バリ」はバリエーションルート; 正規の登山道ではなく独自に開発したルートを指す.

以下は単行本の CM*****
古くなった建外装修繕を専門とする新田テック建装に、内装リフォーム会社から転職して2年。会社の付き合いを極力避けてきた波多は同僚に誘われるまま六甲山登山に参加する。その後、社内登山グループは正式な登山部となり、波多も親睦を図る目的の気楽な活動をするようになっていたが、職人気質で職場で変人扱いされ孤立しているベテラン社員 妻鹿 (めが) があえて登山路を外れる難易度の高い登山「バリ山行」をしていることを知ると……。
「山は遊びですよ。遊びで死んだら意味ないじゃないですか! 本物の危機は山じゃないですよ。街ですよ! 生活ですよ。妻鹿さんはそれから逃げてるだけじゃないですか!」(本文より抜粋)
会社も人生も山あり谷あり、バリの達人と危険な道行き。圧倒的生の実感を求め、山と人生を重ねて瞑走する純文山岳小説。
*****

サラリーマン視点の企業小説と,山岳小説の混血.前者はぼく的にはいじましく,不得意分野だが,これを欠いては芥川賞にはならないのだろう (直木賞でもいいように思うが,2賞の区別はよくわからない).
山岳場面の迫力には,六甲などという低山でもブンガクできることを認識した.

六甲のポピュラーなバリエーションルートならネットにも載っている.作中「私」がいきなり妻鹿さんに連れて行かれる西山谷はこれだろう.
「私」はこの山行で肺炎にかかってしまうのだが,職場に復帰したら,最低だった会社の経営状態が改善していたり,妻鹿さんが退社していたり,という展開はちょっと安易に思う.
妻が「私」に対して終始クールに対応するのがおもしろい.

大学時代に属していたサークルでは,強硬派はバリ山行どころか,あえて登山道がない山を試みていた.百名山クラスでは平ヶ岳には,今でも尾瀬からの登山道はない.60 年前は.とくに東北にはそんな山はいくらでもあった.ぼくは軟弱だったので,夏は藪と虫の地獄と聞き,もっぱらこうした山には残雪期にスキーで行くことで誤魔化していた.
バリどころかもともとルートがない原始登山を見聞きしているから,六甲バリ山行にママゴトみたいという先入観を持ってしまうのは仕方がないこと.でも「私」が振休日,妻子を送り出してからバリ山行に出かけ,コーヒーを淹れたりして帰り,夕刻には何食わぬ顔をして妻子を待ったりする場面には,憧れた.


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