Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

暗譜 : 網膜へのフォトコピー

2021-05-26 09:03:18 | ジャズ
図書館の利用もままならないので,古い本をぱらぱらとめくっていたら
 岩城宏之「楽譜の風景」岩波新書 (1983/12)
に暗譜について書いてあった.見出し画像右はストラヴィンスキー「春の祭典」の総譜の一部.指揮者たるもの,これを百数十ページ 全曲覚えなくてはならない...というものでもないらしいが,覚えていないとカッコ悪いらしい.

岩城さんはいちどだけ音楽家と暗譜の技術について話し合ったことがあるそうで,その相手はピアニストのアルトゥール・ルービンシュタインであったという.彼が説くには
- 曲を覚えるのに頭を使ってはいけない.展開部の後でナニ調に転調などと,知識をつかうやりかたでは,いつ忘れるかわかったものではない.
- 耳の感覚に頼る,つまりメロディやハーモニーの流れに乗って演奏するのは危険すぎる.指先の感覚で機械的に記憶の中断を救うこともできるが,音楽的とはいいかねる.
- いちばん大事で安全な方法は目で覚えること.目の中にフォトコピーすれば,いつでも目の前に楽譜が現れる.
論理的とは言えない部分もあるが,岩城さんは共感した.フォトコピーは,岩城さんの方法でもあったのだ.

ぼくがこの網膜フォトコピー法を初めて知ったのは,ミルト・ジャクソンへのインタビュー記事からだった.ビッグバンドを別とすればジャズに楽譜はいらない,という常識を最初に破ったのが Modern jazz Quartet だったかもしれない.MJQ の公演を手伝ったことがあるのだが,ジョン・ルイスは曲によっては音符がぎっしり詰まった,おまけに蛍光ペンで色付けした総譜を見ながら演奏していた,しかしミルトさんはほとんど暗譜だった.ちなみにベースのパーシー・ヒースは,アランフェスのときだけ老眼鏡を取り出した.

インタビュー記事では,ミルトは天才だからフォトコピーができる...という書き方をしていた.
しかし岩城本を読むと,それはない らしい.岩城さんのはじめての「春の祭典」の暗譜では,1ページを3分見つめることを全ページ繰り返し,3ヶ月かかったという.記憶に集中すると顔が真っ赤になる.記憶は薄れるから,次にこの曲を公演するときには,また網膜へのコピー作業が必要となる.しかしいちど覚えたら,2度目のにらめっこは3週間ですみ,3度目は1週間...というふうに次第に短縮し,最後には数時間でコピーが鮮明になるようになった.「レパートリーとは,こういうことなんだろう」と結んでいる.
ミルトさんは しれっとしていたが,こっそり努力していたのかも...オケ総譜の暗譜とは違うけれど...

岩城本を購読した時代も,MJQ公演を手伝った時代にも,自分が楽譜を見て演奏する立場になるとは思っていなかった.
今,もっぱら付き合うのはリードシート,メロディ譜 + コードネームだが,目が悪くなって暗譜に頼らざるを得なくなった.耳の感覚に頼って演奏しているが,たしかに危険を感じている.網膜コピー法に挑戦してみようか.

チエックしたら,この話題は以前にもこのブログに書いていた

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