Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

乱歩の日本語

2020-07-05 10:01:49 | 読書
今野真二,春陽堂書店 (2020/6).

明治27年に生まれ昭和40年に没した江戸川乱歩は、明治~大正~昭和期の日本語を操っていたことになる.彼のミステリへの貢献は初期の諸短編に尽きるが,その後は大衆を相手に,はっきり言えば荒唐無稽な長編を書き飛ばした.しかもそれがよく売れて,作品集・全集が何度も出版され,乱歩はその度に自分の日本語に手を入れた.日本語学者にとっては,乱歩はデータの宝庫なのだ.

わが乱歩初体験は少年雑誌に連載されていた「怪奇四十面相」だった.当時は乱歩に限らず戦前の書籍の,旧仮名遣い,ルビを振った漢字などを目にすることができ,いろいろな「日本語」を知らず知らずに体験していたと思う.



A5版350ページの大著だが,生データそのままが何ページも続く部分があったりする.たとえば,版による表記の違いが上のような形で何ページも占めている.1 で (関東) 大震災が戦災に変わるのは面白い.

目次は...
序章 / 第1章 乱歩を文庫でよむ / 第2章 乱歩の語り─物語を支える枠組み─ / 第3章 初出でよむ乱歩 / 第4章 乱歩の固有名詞 / 第5章 キーワードでよむ乱歩 / 第6章 乱歩のリライト / 第7章 乱歩の片仮名 / 第8章 消された乱歩 / おわりに

個人的には第4章の明智の住処が,下宿からアパート・マンション,さらに邸宅へと出世し,間取りも変わる興味があった.
第6章によれば,僕が読んだ後期の少年探偵団ものの多くは,大人のために書いたもののリライトで,しかも本人によるリライトかどうかも疑問だという.
画像の 13 のようなカタカナの使い方は第7章で詳しく論じられている.ここでは乱歩特有のオマトノベにも言及している.「二つの乳房がムクムクと動く」「部屋全体がムクムクとうごめきだした」など,十数ページにわたって「ムクムク」の用法が示されたりする.
第8章タイトルの「消された」の意味はよくわからないが,紛失をフンジツかフンシツか,誰はダレかタレか 等を問題にする.「逃げそくなう」「後じさり」「後すざり」など,へんだ.16トンは「ご飯をよそる」「卵をうでる」などが東京の方言らしいことを地方に就職してはじめて認識したのだが,乱歩も幼少期に刷り込まれた言い方を原稿用紙に書いていたのだろう.

「おわりに」では乱歩の「黒手組」に倣って,著者今野氏が作った暗号が披露される.
とにかく著者の乱歩愛にあふれた一冊.図書館で借用.

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