放射線医学が使う単位はすっきりしない.
これはあさりよしとよさんによる,わかりやすい「ベクレル Bq」・「グレイ Gy」・「シーベルト Sv」の違いの喩え.
しかしこれらは SI 組立単位であり,書き直すとそれぞれ 1/s, J/kg, J/kg である.Gy と Sv は同じで,これらはジュール J というエネルギーの単位を含む.kg は照射された物体 (人体も物体である) の質量である.このふたつを Bq と同列に扱うのは無理である.
グレイ Gy に修正係数を乗ずるとシーベルト Sv となるのだが,ここではとりあえずグレイを問題にする.
グレイは吸収線量に対して定義されている.対象をつきぬけたり対象で反射したりする放射線のエネルギーは計上しない.吸収分だけをどう計算し計測するかは難しい.この問題を単位に背負わせてしまうのは,ある意味ごまかしである.
またグレイは質量 kg で正規化されている.こうすれば,例えばゾウとネズミの全身被爆による損傷を同じ土俵で議論できる.
しかしこのために,局所被爆と全身被爆を混乱させる.教科書には,全身被爆では 「4 グレイの被爆で半数が 60 日以内に死亡する」などと書いてある.いっぽう がん治療では数十グレイを,1 日一回 10 分程度に分割して患部に照射する.1kg に対し 1J の放射線でも,1g に 0.001J でもおなじ 1Gy だが,ここまではなかなか考えが及ばない.
グレイという単位は時間を含まない.例えば原爆・水爆・事故の短時間・大量の被爆と,汚染された空気・水・食料による長時間にわたる少量の被爆とが,同じグレイ値になったとしても,人体が受ける損傷はおおいに異なる.
時間も考慮に入れた,すなわち時間当たりのエネルギーの単位はワットすなわちジュールを秒で割ったもの,W=J/s である.世の中では電力などで,ジュールよりもワットの方が通りが良い.むしろワットに基づいて吸収線量を定義したほうが現実的だったと思う.現に某がん治療加速器のカタログには「最大線量率 500cGy/min」の文字がある.c はセンチで,これは約 0.0083Gy/s=0.083W/kg のことである.
しかし,質量も時間も考慮に入れると,複雑になるし,何 W/kg では何 Gy が致死量か などと言い出すと,議論を一からやり直すことになりそう ではある.
こうした単位がどういう経緯で決まったのか知らない.国際的な委員会の類のオトシドコロだったんだろう.
ちなみにジュール J もまた組立単位であり,mksA 系の基本単位で書くと J は m^2·kg·s^-2,Gy と Sv は m^2·s^-2 となる.a^n は a の n 乗と読んでください.
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