夏山かほる, PHP研究所 (PHP文芸文庫 2023/3).
カバーは土佐光起による紫式部図.
帯に 2024 年大河ドラマ云々とあるが,この小説がドラマ「光る君へ」の原作というわけではないようだ.
第11回 (2019年) 日経小説大賞 受賞作.
以下ネタばらし.
一条天皇の中宮・彰子は藤原道長の娘.いっぽうこの小説では藤式部 (紫式部) は道長と関係し男児を産む.彰子が産んだ天皇の子は女児で,それでは道長が親王 (将来の天皇) の父として権力をふるえない.そこで道長は藤式部の男児と中宮彰子の女児を交換し,彰子が男児をもうけたことにしてしまう.
平易な文章で書かれたおとなしい小説と思って読み進んだら,大胆な展開 !! しかしこの設定で何がが起こることを期待したら,裏切られた.
Wikipedia によれば,源氏物語は三部構成とするのが通説で
第1部 : 光源氏が数多の恋愛遍歴を繰り広げつつ、王朝人として最高の栄誉を極める前半生.
第2部 : 愛情生活の破綻による無常を覚り、やがて出家を志すその後半生と、源氏をとりまく子女の恋愛模様.
第3部 : 源氏没後の子孫たちの恋と人生.
このストーリーの展開と,藤式部 - 道長の人生を平行に描くのが狙いだったかも.しかし道長を光源氏を対応させて無理がないのは常識的には第1部だけだろう.物語の出発点では藤式部が道長を意識していたとは思えない.道長がパワハラでストーリーを捻じ曲げたがるのも第1部なら矛盾しない.でもそれだけではあっけない.
源氏物語の価値は第2部第3部があってこそと思うが,ここを「新・紫式部日記」はあっさりと やり過ごして終わらせてしまう.冷泉帝の名前は出てくるが,さらに現実の宮中のできごとで肉付けしてもらったほうが,深い小説になったと思うが,無理な注文かも.
古典の紫式部日記では清少納言をあしざまに描いているが,この新・紫式部日記では清少納言はわけ知りのおばさんとして登場する.
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