不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

被差別文学全集

2016-09-16 09:18:39 | 読書
塩見 鮮一郎 編集,河出文庫 (2016/8).
全集と言っても一冊の文庫本.図書館から借用.

東京にいたときはのブの字も見なかったが,広島では時々目にする.しかし故意か偶然か,雑談で被差別が話題になった経験はほとんどない.
岡山市出身の編者によるまえがきには,さきに刊行した「被差別小説傑作集」の姉妹編であって,「傑作集」は思想性と求心性を大事にしたが,この「文学全集」はもっと自由で茫洋としたものがいくつかある,と書いてある.

Amazon  より内容(「BOOK」データベースより)を引用すると*****
子規のロマン主義の側面、鏡花の怪奇趣味の根底、ハーンの日本の本質への切り込み、柳田の被差別者へのこだわり、喜田のエタ寺への眼差し、神近のリアリズム、関西人川端の“死”の受容、「野晒し」の意味した江戸の背景、武田のど迫力、蘭童の問題作など、読み応え充分の、決定版被差別文学史。*****

珍しい,正岡子規の小説に始まる.長らく「浄書までした原稿を筺底に秘したまま...」だったのだそうだ.

漱石の「猫」では迷亭が蛇飯の話で一座を煙に巻く場面がある.蓋にたくさん小さな穴を開けた鍋で,にょろにょろと生きた蛇たちを米と一緒に炊く.蛇たちは熱いので穴から頭を出す.そこをつかんでしごくと,骨と皮は頭と一緒にとれて,肉だけが米に炊き込まれるのだそうだ.この本の泉鏡花の「蛇食い」はその原典と思う.

この2作に続くと,ラフカディオ・ハーンの文章の邦訳がとても読みやすい.「俗唄」の解説だが,前書きが良い.

神近市子は社会党の代議士女史というイメージしかなかったが,解説によれば伊藤野枝・大杉栄と三角関係にあったとのこと.ここに収録されたのは,理想主義者の医師がの娘と結婚する小説で,モデルが実在するように思えるが,あまり面白くない.

川端康成の小説は,どこが被差別文学かわからない.

落語「野晒し」は 1929 年の6代目春風亭柳枝版.解説のサゲの説明を読まないと,被差別文学とする理由がわからない.幇間がシンチョウという名前で,これを新町とひっかけたのが味噌だが,志ん朝がこのネタをやったらと Youtube をみたけれど....

武田繁太郎の「風潮」は今のセンスでは芥川賞候補作とちょっと違うように思う.民俗学者・喜田貞吉による「特殊と寺院」とペアなのかもしれない.

最後は福田蘭童のエンタメ小説「ダイナマイトを食う山窩」.青木繁と福田たねの子で,石橋エータローの父,尺八奏者と認識していた.この小説に著作権侵害ありと,山窩作家・三角寛に訴えられたのだそうだ.ダイナマイトはねっとり甘くて美味しいらしい.

読み手の知識不足もあり,得体の知れないアンソロジーという感じだった.

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 直木賞 @ オール読物 9 月号 | トップ | 落語「野晒し」のサゲ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事