塩見 鮮一郎 編集,河出文庫 (2016/8).
全集と言っても一冊の文庫本.図書館から借用.
東京にいたときはのブの字も見なかったが,広島では時々目にする.しかし故意か偶然か,雑談で被差別が話題になった経験はほとんどない.
岡山市出身の編者によるまえがきには,さきに刊行した「被差別小説傑作集」の姉妹編であって,「傑作集」は思想性と求心性を大事にしたが,この「文学全集」はもっと自由で茫洋としたものがいくつかある,と書いてある.
Amazon より内容(「BOOK」データベースより)を引用すると*****
子規のロマン主義の側面、鏡花の怪奇趣味の根底、ハーンの日本の本質への切り込み、柳田の被差別者へのこだわり、喜田のエタ寺への眼差し、神近のリアリズム、関西人川端の“死”の受容、「野晒し」の意味した江戸の背景、武田のど迫力、蘭童の問題作など、読み応え充分の、決定版被差別文学史。*****
珍しい,正岡子規の小説に始まる.長らく「浄書までした原稿を筺底に秘したまま...」だったのだそうだ.
漱石の「猫」では迷亭が蛇飯の話で一座を煙に巻く場面がある.蓋にたくさん小さな穴を開けた鍋で,にょろにょろと生きた蛇たちを米と一緒に炊く.蛇たちは熱いので穴から頭を出す.そこをつかんでしごくと,骨と皮は頭と一緒にとれて,肉だけが米に炊き込まれるのだそうだ.この本の泉鏡花の「蛇食い」はその原典と思う.
この2作に続くと,ラフカディオ・ハーンの文章の邦訳がとても読みやすい.「俗唄」の解説だが,前書きが良い.
神近市子は社会党の代議士女史というイメージしかなかったが,解説によれば伊藤野枝・大杉栄と三角関係にあったとのこと.ここに収録されたのは,理想主義者の医師がの娘と結婚する小説で,モデルが実在するように思えるが,あまり面白くない.
川端康成の小説は,どこが被差別文学かわからない.
落語「野晒し」は 1929 年の6代目春風亭柳枝版.解説のサゲの説明を読まないと,被差別文学とする理由がわからない.幇間がシンチョウという名前で,これを新町とひっかけたのが味噌だが,志ん朝がこのネタをやったらと Youtube をみたけれど....
武田繁太郎の「風潮」は今のセンスでは芥川賞候補作とちょっと違うように思う.民俗学者・喜田貞吉による「特殊と寺院」とペアなのかもしれない.
最後は福田蘭童のエンタメ小説「ダイナマイトを食う山窩」.青木繁と福田たねの子で,石橋エータローの父,尺八奏者と認識していた.この小説に著作権侵害ありと,山窩作家・三角寛に訴えられたのだそうだ.ダイナマイトはねっとり甘くて美味しいらしい.
読み手の知識不足もあり,得体の知れないアンソロジーという感じだった.
全集と言っても一冊の文庫本.図書館から借用.
東京にいたときはのブの字も見なかったが,広島では時々目にする.しかし故意か偶然か,雑談で被差別が話題になった経験はほとんどない.
岡山市出身の編者によるまえがきには,さきに刊行した「被差別小説傑作集」の姉妹編であって,「傑作集」は思想性と求心性を大事にしたが,この「文学全集」はもっと自由で茫洋としたものがいくつかある,と書いてある.
Amazon より内容(「BOOK」データベースより)を引用すると*****
子規のロマン主義の側面、鏡花の怪奇趣味の根底、ハーンの日本の本質への切り込み、柳田の被差別者へのこだわり、喜田のエタ寺への眼差し、神近のリアリズム、関西人川端の“死”の受容、「野晒し」の意味した江戸の背景、武田のど迫力、蘭童の問題作など、読み応え充分の、決定版被差別文学史。*****
珍しい,正岡子規の小説に始まる.長らく「浄書までした原稿を筺底に秘したまま...」だったのだそうだ.
漱石の「猫」では迷亭が蛇飯の話で一座を煙に巻く場面がある.蓋にたくさん小さな穴を開けた鍋で,にょろにょろと生きた蛇たちを米と一緒に炊く.蛇たちは熱いので穴から頭を出す.そこをつかんでしごくと,骨と皮は頭と一緒にとれて,肉だけが米に炊き込まれるのだそうだ.この本の泉鏡花の「蛇食い」はその原典と思う.
この2作に続くと,ラフカディオ・ハーンの文章の邦訳がとても読みやすい.「俗唄」の解説だが,前書きが良い.
神近市子は社会党の代議士女史というイメージしかなかったが,解説によれば伊藤野枝・大杉栄と三角関係にあったとのこと.ここに収録されたのは,理想主義者の医師がの娘と結婚する小説で,モデルが実在するように思えるが,あまり面白くない.
川端康成の小説は,どこが被差別文学かわからない.
落語「野晒し」は 1929 年の6代目春風亭柳枝版.解説のサゲの説明を読まないと,被差別文学とする理由がわからない.幇間がシンチョウという名前で,これを新町とひっかけたのが味噌だが,志ん朝がこのネタをやったらと Youtube をみたけれど....
武田繁太郎の「風潮」は今のセンスでは芥川賞候補作とちょっと違うように思う.民俗学者・喜田貞吉による「特殊と寺院」とペアなのかもしれない.
最後は福田蘭童のエンタメ小説「ダイナマイトを食う山窩」.青木繁と福田たねの子で,石橋エータローの父,尺八奏者と認識していた.この小説に著作権侵害ありと,山窩作家・三角寛に訴えられたのだそうだ.ダイナマイトはねっとり甘くて美味しいらしい.
読み手の知識不足もあり,得体の知れないアンソロジーという感じだった.
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