【デジタル発】:森友問題真相解明を 赤木雅子さんインタビュー
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【デジタル発】:森友問題真相解明を 赤木雅子さんインタビュー
「夫は改ざんから亡くなるまでの1年間、本当に苦しみました。人間が壊れていくのを目の前で見たんです。夫のように改ざんに手を染めた人が今、苦しんでいるのなら本当のことを話してほしい」。森友学園への国有地売却に関する決裁文書の改ざんを強いられ自殺した財務省近畿財務局の元職員赤木俊夫さん=当時(54)の妻雅子さん(50)は3日、北海道新聞社を訪れてインタビューに答えた。国と当時の財務省理財局長だった佐川宣寿氏を相手にした訴訟への思い、夫を自死に追い込んだ組織に対する胸の内を語った。(報道センター 下山竜良、門馬羊次、野呂有里)
――俊夫さんが文書改ざんの過程を時系列で記し、財務省理財局とのメールや添付資料をまとめた文書「赤木ファイル」について、昨年3月の提訴時から存在を指摘し、国側に公開を求めていました。5月に国側がファイルの存在を認め、6月23日の第4回口頭弁論(大阪地裁)でファイルが提出されます。
ファイルが存在するのに国側は「探索中」という言葉で濁し、時間稼ぎをされたことに憤りを感じています。それでも「ある」と認めたことで第一歩を踏み出せたと思います。ただ、国側は一部(第三者の個人情報)を黒塗りにするという説明をしています。夫が残した記録にどれだけ黒塗りをされるのか気がかりです。ファイルは全て改ざんに関わる記録なので、その作業を誰がどういう指示でしたのか、関わった人たちが出てくるのなら、黒塗りをする必要はないはずです。
――俊夫さんは、どんな気持ちでファイルを残したのでしょうか。
夫はとてもきちょうめんな性格で何でも記録する人でした。決裁文書の改ざんを指示された2017年2月26日のことも手帳に書いていました。その日は日曜日で、夫と買い物に出掛け、その後に地元の梅林公園を訪れた時に夫の上司から電話がありました。手帳には「統括(上司)から連絡を受け出勤」と書いていました。改ざんのために呼ばれたのです。やりたくないことを指示され、断ることもできなかった。そのつらい思いを全てファイルに記録していると思います。
――俊夫さんが命を絶つ時、自宅のパソコンに「手記」を残し、雅子さんが昨年の提訴時に公表しました。その手記では佐川氏の指示で改ざんが行われたと書かれていました。赤木ファイルには、より詳細な状況が記されているのでしょうか。
夫は佐川さんと直接やりとりできる立場ではなかったと思います。それでも手記には「すべて佐川さんの指示」と書いていました。それだけ断言しているのですから、ファイルには佐川さんの具体的な指示につながるような記述があるのではと思っています。手記に書いてあることと同じ内容なら、国はこれほど提出を拒まなかったのではないでしょうか。
――財務省が2018年に公表した調査報告書では、改ざんの責任の所在が曖昧だったため、具体的な改ざんの状況を記した手記の公表は、大きな衝撃がありました。
手記は自宅で夫が亡くなっているのを発見した直後には気づきませんでした。警察が来て、部屋を調べている中で知りました。夫はパソコンを開くためのパスワードをキーボードに貼り付けていて、パソコンを開いたら手記が表示されるようにしていました。手記には、改ざんの経緯を公にしてほしいという夫の思いが書いてありました。マスコミへの対応など経験がなく、どう公にしたらいいのか悶々(もんもん)としていました。しかし、夫はうそなど書かないと信じ、弁護士の方や記者の相沢冬樹さん(手記を特報した元NHK記者)らに支えられ、手記の公表と提訴に踏み切れました。
――手記の公表後、森友問題の再調査を求める署名が35万筆も集まりました。
「一人ではない」と思えました。その声があったから、メディアの取材にも対応しようと思えました。裁判も本当に緊張しますが、第1回の口頭弁論(2020年7月15日)では「夫がどれだけ深い苦しみに悩んでいたのか。真実が知りたい」などと10分ほど掛けて訴えることができました。
――俊夫さんは「私の雇用主は国民」と話していたと聞きます。
夫は手帳に「国家公務員倫理カード」をいつも挟んでいました。すり切れてしまっても、ずっと大切に持っていました。そのカードには「国民の疑惑や不信を招くような行為をしていませんか?」と書かれています。それなのに国は今でもずっと不信を招くような言動を続けています。
――安倍晋三前首相、麻生太郎財務相、そして菅義偉首相も再調査を否定しています。
財務省の報告書には、夫の名前も出てこなければ、亡くなった人間がいたことにも触れられていませんでした。その事実も明記した上で、再調査をしてほしい。麻生さんたちは「再調査を否定する立場ではなく、再調査をされる側」なんです。夫は職場でも間違ったことは間違っていると上司にも訴えて仕事をしていたと思います。それなのに、組織の力で犯罪行為に加担してしまった。今でも近畿財務局で上司だった人たちや、さらにその上の人たちは口をつぐんでいます。本当のことを話すことができる機会があれば、その人たちも気持ちが楽になれるはずです。それができないのは、本当に腐った組織だと思うんです。
――今後の裁判で、佐川氏をはじめ改ざんに関わった財務省関係者が証人として出廷することを望んでいると思います。実現した時はどのような言葉を投げかけますか。
改ざんに関わった全てのことをうそをつかず話してほしい。それが夫に対する礼儀だと思います。佐川さんには、まず謝ってほしいんです。夫に手を合わせにも来てほしい。これまで、佐川さんに2度、手紙を出したのですが返事がありません。夫の手記には佐川さんの指示と書かれています。それなのに、今、どういう気持ちでいるのか。全部聞いてみたいんです。
――真相解明にはさまざまな困難がありますが、どのような思いを支えにしているのですか。
私は「赤木俊夫が趣味」と話したことがあります。休日などは、夫のさまざまな趣味に付き合い、自分の趣味が持てないほど忙しかった。夫は亡くなる1年前からすごく苦しんでいましたが、それまで一緒に過ごせた時間は夫も幸せだったと思うのです。趣味を楽しんで、行きたい場所には行けて。全部ではなかったのかもしれませんが、後悔はしていなかったと思います。夫が大好きだったし、今でも大好き。今も一緒にいる気持ちです。だから、夫のために出来ることは、後悔のないように向き合いたいのです。
――俊夫さんの生前、2人で北海道を訪れていたそうですね。
2人とも北海道が大好きで何度も旅行に来ています。夫は建築家の安藤忠雄さんのファンで、安藤さんの建築があるトマム(上川管内占冠村)や札幌の渡辺淳一文学館などを巡りました。今日、北海道に降り立って、やっぱり空気が澄んでいて、夫と一緒に来たかったなと思いました。
今、PCR検査を受けながら、これまで沖縄、高知、長野に足を運びました。夫が改ざんの経緯を記したファイルが全面公開されるよう、全国の皆さんに知ってもらいたいと思い、活動しています。
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元稿:北海道新聞社 主要ニュース 社会 【話題・森友学園への国有地売却に関する決裁文書の改ざんを強いられ自殺した財務省近畿財務局の元職員赤木俊夫さん=当時(54)の妻雅子さん(50)】 2021年06月04日 13:13:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。