【東京五輪汚職】:スポンサー企業の全てに国民の疑念 ■賄賂を要求されたのは角川とAOKIだけなのか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【東京五輪汚職】:スポンサー企業の全てに国民の疑念 ■賄賂を要求されたのは角川とAOKIだけなのか
弁護士から「賄賂に当たる可能性がある」と警告されても振り切って突っ走る。それがおぞましい利権の巣窟、五輪の“魔力”なのか。東京五輪をめぐる汚職事件は、紳士服大手「AOKIホールディングス」前会長の青木拡憲被告(83)に続き、贈賄側のスポンサー企業から2人目のトップが14日に逮捕された。
出版大手「KADOKAWA」会長の角川歴彦容疑者(79)は、逮捕前の今月5日に取材に応じた際、大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者(78)に支払ったコンサルタント料について、賄賂の認識は「全くありません」と答え、「僕はそんな卑しい心で経営したことはない」とまで言い切っていた。しかし、東京地検特捜部は既に逮捕した同社の元専務らとの共謀を認定。「鶴の一声」で全てが決まるワンマン会社の創業家出身会長である。本人は容疑を否認しているというが、会長の了解なくして物事は進まないと判断したということだろう。
一方、カネの動きはこうだ。
特捜部は、高橋の「電通」時代の後輩のコンサルタントが代表を務める「コモンズ2」に対し、KADOKAWA側が支払った7600万円を、大会スポンサー選定に絡む賄賂と認定した。高橋は、スポンサー枠に「出版サービス」分野を新設。当初は2社に計5億円の負担を求め、負担額の8割をスポンサー料として組織委に、2割を「手数料」としてコモンズ2に支払わせることを計画したとみられる。1社は最終的に辞退したものの、高橋らの計画通り、2億8000万円のスポンサー料と合わせ、2割分にあたる7600万円が「手数料」としてKADOKAWA側からコモンズ2に支払われたのだ。
AOKIのケースでは、特捜部が高橋への賄賂と認定したのは5100万円だが、高橋がAOKI側に示した契約金は7億5000万円だったとされる。
◆KADOKAWA会長は墓穴を掘った
実際は5億円がスポンサー料で2億5000万円は“選手強化名目”だった。電通の子会社が2000万円を中抜きし、2億3000万円が高橋へ。そこから2つの競技団体に一部が寄付され、残りの1億5000万円程度が高橋の手元に残ったとみられる。
AOKIとKADOKAWAが契約した「オフィシャルサポーター」は国内スポンサー3ランクの最下位ながら表向きの契約金は「15億円以上」。つまり、契約金をダンピングして、「手数料」をピンハネする手口が当たり前の世界だったように見えるのである。
今後の捜査の行方について、元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏はこう話す。
「スポンサーになることをお願いした企業にとって、高橋容疑者の立場が『(みなし公務員となる)組織委理事の権限に関するもの』なのか、『電通への影響力に関するもの』なのかで微妙な事件だと当初は見ていました。しかし、AOKI前会長は保釈されたので『理事の権限』で争うことはない、ということでしょう。KADOKAWAに関しては、電通の後輩の『コモンズ2』と高橋容疑者の財布が一体とみなせるかというさらなるハードルがあった。だが、5日の取材対応で角川会長は墓穴を掘りましたね。記者の質問に対し、『組織委の理事にお願いするのは当然』と発言した。これで検察は『理事の権限』だと立証しやすくなりました。それに角川会長は、自分の正当性を主張しようとして、取り調べでいろいろしゃべりそうです」
注目はAOKI前会長もKADOKAWA会長も、スポンサー選定前に大会組織委の会長だった森喜朗元首相に会っていることだ。高橋が「AOKI側の依頼で森氏を紹介し、会食したことがある」と認めているというし、実際、AOKI前会長は「見舞金」名目で森に200万円を手渡している。KADOKAWA会長も選定前に高橋と2度面会し、そのうちの1回は森も同席していた。
森がスポンサー選定の裏のキーマンだったのか。特捜部は森を参考人として、すでに3回、任意で事情聴取した。角川の逮捕で、さらに何が出てくるか。
◆五輪利権にはカネだけでなく「箔」「格」もある
「なんとしてもスポンサーになりたい」──それがAOKIやKADOKAWAが贈賄に手を染めた動機だとすれば、他のスポンサーは大丈夫なのか。
本来「1業種1社」だった大会スポンサーの原則が撤廃されたのは、商業イベントと化した五輪の巨額の運営費をまかなう目的と同時に、それだけ国内開催の祭典に参加したい企業がウジャウジャいた、ということでもある。
IOC(国際オリンピック委員会)が管轄するワールドワイドのスポンサー3社とは別に、国内スポンサーとして上位から「ゴールドパートナー」「オフィシャルパートナー」「オフィシャルサポーター」の3ランクが設定され、65社が選ばれた。朝日、読売、日経、毎日など大メディアも横並びで加わった。
「AOKIやKADOKAWAが契約した最下位スポンサーの『オフィシャルサポーター』は18社でしたが、スポンサーになりたい企業を吸収するための受け皿みたいなものでした」(大会関係者)
AOKI、KADOKAWAとは別の第3のルートとして広告大手の「大広」も今月、特捜部に家宅捜索された。大広には、スポンサー獲得業務の一部を担う「販売協力代理店」に選ばれるよう高橋に依頼して1400万円を支払った疑惑が浮上している。さらに第4のルートは広告大手「ADKホールディングス」。同じくスポンサー獲得の再委託先で、既に7月に捜索されている。ADKの関係で今月7日に捜索された駐車場サービスの「パーク24」も最下位スポンサーだった。
◆いよいよ検察の本気度が問われる
スポンサー企業にしろ広告代理店にしろ、とにかく東京五輪でひと儲けしようと高橋に群がり、そこに目をつけた高橋が賄賂を懐に入れた、という構図なのか。それは、安倍政権下で、東京五輪が政府肝いりの「国家プロジェクト」のような位置づけになったことも無関係ではないだろう。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「利権のかたまりの五輪には、金銭的な利益だけでなく『箔』や『格』のようなものもあったと思います。AOKI前会長が『高橋さんのおかげで、地元で聖火リレーを走れた』と言っていたというのが象徴的です。五輪のスポンサーになれれば、創業家出身らしい名誉欲が満たされ、企業としての格も上がると考えたのでしょう。そこには“見返り”が発生する。東京五輪はいまだ費用の使途も不透明。そのトップにいたのが森元首相です。政界までメスを入れなければ真の疑惑解明にはなりません」
東京五輪を巡っては、スポンサー選定以外でも怪しい疑惑がある。招致当時の菅官房長官が、安倍とも近いセガサミーホールディングスの里見治会長に「アフリカ人を買収するのに4億~5億円の工作資金が必要」「嘉納治五郎財団に振り込んでくれれば会長に迷惑はかからない。この財団はブラックボックスだから足はつかない」などと持ちかけ、実際に3億~4億円が財団に入ったと「週刊新潮」が報じた一件だ。裏金のトンネルになった疑いがあるこの財団の代表理事は森元首相だった。
さらに森が、新国立競技場建設にともなう「神宮外苑地区の再開発」を目的に暗躍していたことは、知る人ぞ知る話。今後、建設業界ルートも出てくるのか。
そもそも高橋に入ったカネはその先どこへ流れたのか。五輪の闇は底なしだ。
「安倍政権が無理をして東京五輪を引っ張ってきて、ドロドロした動きには常に安倍元首相の影がちらついていた。『絶対に高橋さんは捕まらないようにします』と安倍氏が言っていたと月刊誌『文芸春秋』が報じましたが、安倍氏が凶弾に倒れることがなければ、五輪汚職は事件化しなかったでしょう。検察が安倍・菅政権の本丸に切り込んで行けば、リクルート事件以上の疑獄になりますよ」(郷原信郎氏=前出)
検察は国民の怒りに真正面から応えてくれるのか。いよいよ本気度が問われている。
元稿:日刊ゲンダイ DIGITA 主要ニュース 政治・社会 【政治ニュース・疑惑・東京五輪汚職】 2022年09月16日 17:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。