【解説委員室から】:ジャニーズ会見「キーマン隠し」の次は「質問封じ」 透ける事務所の体質
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【解説委員室から】:ジャニーズ会見「キーマン隠し」の次は「質問封じ」 透ける事務所の体質
故ジャニー喜多川氏の性加害をめぐり、ジャニーズ事務所が2日に開いた記者会見で、指名しない記者名を列挙した「NGリスト」が存在していたことが明らかになった。事務所側は関与を否定しているが、会見の主催者として、責任は免れない。9月7日の会見では、喜多川氏が性加害を加えていた当時の社内事情に最も詳しいとされる最古参の元幹部が欠席。「キーマン隠し」に続き、今回は特定記者の「質問封じ」を図った形で、説明責任を果たすことに後ろ向きな、事務所の体質が透けて見える。(時事通信解説委員長 高橋正光)<button class="sc-cuZWaG dCvKOZ" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="26"></button><button class="sc-cuZWaG dCvKOZ" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="26"></button>
社名の看板が撤去されたジャニーズ事務所=6日、東京都港区(時事通信社)
■【写真】記者会見で一時退席するジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子氏=2023年9月7日
◇記者を選別「NGリスト」
「NGリスト」の存在は4日夜、NHKが最初に報じ、時事通信も含めて各社も追随した。それによると、リストには複数の記者の名前と写真が掲載され、会見の進行を委託されたコンサルティング会社の関係者が会見場に持参していた。
会見は、会場の都合などを理由に、事務所側が(1)記者は1社2人まで(2)質問は1社1問(3)会見時間は2時間―と指定。司会者が挙手した記者やリポーターらを指名する方式で進められた。会見の後半には、指名されない記者が不満の声を上げ、会見場が騒然とする場面もあった。
報道を受け、事務所はコメントを発表。要約すると(1)会見の前々日に会見を委託したコンサル会社と打ち合わせをした際、同社が「NG」と書かれたメディアのリストを持参(2)関連会社社長の井ノ原快彦氏が「これどういう意味ですか? 絶対に当てないとだめですよ」と発言し、コンサル会社側は「当てるようにします」と回答(3)このやり取りは、その場にいた役員全員が聞いていた(4)ジャニーズ事務所の関係者は誰も、リストの作成に関与しておらず、指名しない記者を決めるなど全くしていない―という内容だ。
その上で「コンサル会社がしたことであっても、雇った責任があると言われれば、その通り」と責任を認めた。
一方、コンサル会社もコメントを発表。リストの作成、運営スタッフ間での共有を認めつつ、ジャニーズ事務所については「一切関与していない」と強調。「こうした資料に関わらず、登壇者、司会者の判断のもと、幅広い媒体の記者の皆さまにご質問いただくこととし、貴重なご意見を頂戴した」としている。
もっとも、ジャニーズ事務所の関与を否定した同事務所、コンサル会社のコメントは、会見を主催した当事者による一方的な説明にすぎない。なかったことを証明するのは「悪魔の証明」と言われるなどほぼ不可能だが、説明に説得力を持たせることは可能だ。
そのためには、中立な第三者が、両社の関係者からヒアリングをし、少なくとも(1)リスト作成の経緯(2)コンサル側がリストを持参した打ち合わせの出席者と発言、詳細な打ち合わせの内容(3)打ち合わせ後のジャニーズ事務所、コンサル会社双方の対応(4)リストを会見場に持ち込んだ理由と会見での扱い―などを公表する必要があるだろう。
◇「子どもが見ている」井ノ原氏の発言
会見では、ジャニーズ事務所側が決めた「ルール」に従わず、司会者に指名されずに質問を投げ掛けたり、不満の声を上げたりする記者もいた。これに対し、壇上の井ノ原氏は「会見は生中継され、小さな子どもたちも見ている」と指摘、「ルールを守る大人たちの姿を見せたい」などと述べ、その場を収めた。
とはいえ、NGリストに名前があったとされるジャーナリストの鈴木エイト氏は、会見で挙手し続けたが、指名されなかった。司会者は会見の途中「顔が覚えられない」との言葉を発している。仮にリストに基づき、一部記者の質問を封じる形で会見が行われていたとすれば、ジャニーズ事務所の関与の有無は別にして、「大人たち」によって、事務所側に都合がいいよう「仕組まれた会見」を、子供たちに見せたことになる。
リストを入手した「FRIDAY」によると、優先的に指名する記者名も記されていた。特定記者の質問を封じるリストが存在した以上、同事務所には「一切関与していない」との主張を裏付ける努力が求められる。とりわけ、事務所を代表して会見した東山紀之社長と井ノ原氏には、説明責任があると言える。<button class="sc-cuZWaG dCvKOZ" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="26"></button><button class="sc-cuZWaG dCvKOZ" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="26"></button>
ジャニーズ事務所が創業者の故ジャニー喜多川氏による性加害問題について記者会見した会場=9月7日、東京都千代田区(時事通信社)
◆説明に後ろ向き、前副社長再び欠席
ジャニーズ事務所が設置した再発防止特別チーム(座長・林真琴前検事総長)の調査報告書は、ジャニー氏の性加害について「少なくとも40年以上繰り返された」と認定。事務所が、「見て見ぬふり」に終始した「不作為」も、被害拡大の要因として挙げている。
報告書はまた、藤島氏一族以外では唯一、白波瀬傑前副社長の名前を挙げ、ジャニー氏の存命中、死後を通じ、事実関係の調査、原因究明と再発防止、被害者への救済などの措置を取らず、取締役としての「任務を懈怠」したと、責任を指摘している。
報告書があえて、白波瀬氏の名前を挙げたのは、ジャニー氏が性加害を繰り返していた当時、同氏の側近として社内事情に最も精通していた「キーマン」の一人と判断したからだろう。実際、特別チームは白波瀬氏から2回ヒアリングし、最終的にジャニー氏の性加害を認めた。
しかし、9月7日の会見では、社長を引責辞任した藤島ジュリー景子氏が「一身に責任を負う」などの理由から、副社長を辞任した白波瀬氏は欠席。今月2日の会見にも姿を見せなかった。
2日の会見では、9月末時点で325人が補償を求めていることが明かされ、第三者委員会を設置して、被害の実態を会社として調査するよう求める質問も出た。これに対し、会見に同席した弁護士は、特別チームによって「徹底した事実調査は行われている」として、設置を否定した。
そもそも、報告書によると、特別チームがヒアリングしたのは、被害者等が23人、事務所関係者等が18人の計41人。既に325人から被害の申告があったことを考慮すれば、40人超からのヒアリングで、被害の実態が解明できたか疑問だ。
実態に少しでも迫る上で、白波瀬氏の公の場での説明は必要だろう。この点でも、事務所が説明責任を果たす気があるのか姿勢が問われている。
◇記者会見の意味
記者会見は、政治家、団体・企業トップ、スポーツ選手ら、主催する側はさまざま。不祥事を起こした企業が、関係者に謝罪しつつ、事実関係や再発防止策などを説明し、信頼回復を図るケースも多い。ジャニーズ事務所の会見は、これに当たる。
一方、記者にとって会見は、記事の形で読者に必要な情報を届けるための取材の場。会見者を非難、糾弾する場では決してない。厳しい質問をする時も、相手をリスペクトし、丁寧な言葉で聞くことが大事だと、筆者は思っている。また、質問の中で、記者としての判断を盛り込むことはあるが、自身の評価を相手にぶつけて、見解を問い、記事にするのが目的だ。
ジャニー氏の性加害は、国連人権理事会の作業部会のメンバーが来日し、声明を出すなど国際的な関心が高い。国会でも取り上げられ、政府は若者や子どもの性被害防止の緊急対策をまとめた。事務所の対応を疑問視し、企業のスポンサー離れも進んでいる。
メディア側の事情を言えば、被害の実態や再発防止策、社名の変更など事務所の対応は文化部や社会部。政府の取り組みは政治部。国際機関や海外の反応は外信部。企業の動向は経済部。事務所対応を論評するのが論説・解説委員室。社によって、多少の違いはあるかもしれないが、概ねこういったカバー体制になっている。
そして、それぞれの記者が、専門的な立場から必要な取材をし、記事にする。フリーランスの方々は、これらを一人でカバーしているとみられる。記者によっては、特定の部分に焦点を当てて取材し、繰り返し記事にしている人もいるだろう。ただ、メディアにとっては、会見で人数を制限されると、一部の部の記者しか出席できず、さまざまな角度からの質問が難しくなる。
また、メディアにしろ、フリーランスにしろ、質問に対する答えを聞き、再度質問することは多々ある。より真実に迫ったり、不明確な点を詰めたりするためには、必要なこと。読者に、正確で分かりやすい記事を届けるためだ。
「1社1問」に制限されると、真実に迫りにくくなり、正確さや分りやすさで不十分な記事になりかねない。もちろん、会見を開く側の立場からすれば、出席者が増えると、会場確保やセキュリティーの面で負担は増すだろう。
しかし、出席人数や質問数、会見時間に制限がないオープンな形で会見すれば、事務所側の取り組み、考えが、記事や映像を通じて読者に正確に伝わる。被害者の救済、補償に誠意をもって取り組みつつ、説明を尽くす姿勢を示すことが、信頼回復への第一歩ではないか。その意味で、NGリストという新たな事態を受け、ジャニーズ事務所の次なる対応に注目が集まっている。
元稿:時事通信社 JIJI.com 社説・解説・論説・コラム・連載 【解説委員室から】 2023年10月07日 11:02:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。