【社説①・02.20】:備蓄米放出/安定確保へ農政見直しを
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・02.20】:備蓄米放出/安定確保へ農政見直しを
焼け石に水にならないかを懸念する。コメの「流通円滑化」対策として政府が決めた、備蓄米放出だ。
外国人観光客による需要増や南海トラフ地震臨時情報による買いだめで「令和のコメ騒動」とも呼ばれた昨年夏、政府は「秋になれば新米が出回り価格が落ち着く」として放出に否定的だった。ところが2024年産米の生産量は前年から18万トン増えたにもかかわらず、農林水産省が公表する全国スーパーの売り値は昨年から9割値上がりしている。
生産量が増えたのに、全国農業協同組合連合会(JA全農)などが集めたコメは前年から21万トン減った点には首をかしげる。さらなる値上がりを狙った事業者の売り惜しみを疑わざるを得ない。
政府はまず15万トンを放出し、3月下旬には店頭に並ぶ見込みだ。流通状況を見ながら2回目を実施し、最大で合計21万トンを放出する。
しかし高値で買い取られれば市場価格の値下がりは期待できない。価格動向を厳しく注視するとともに、コメの流通に目詰まりが起きていないかも精査する必要がある。
政府は現在、91万トンのコメを備蓄している。著しい不作などの緊急時用だったが、「流通円滑化」を目的とした放出は初となる。今年1月末に農水相の諮問機関が承認した。
今回の放出では、購入業者には1年以内に同じ量を買い戻す条件を付けた。コメの値崩れを防ぐ目的というが、もし今年も異常気象による不作などでコメ価格の上昇が始まれば、買い戻しが拍車をかける可能性が高い。収穫状況を踏まえた柔軟な対応を求める。
留意すべきは、備蓄米放出は一時しのぎの策に過ぎない点だ。
政府は長年、コメ価格の下落食い止めを農業政策の中軸に据えてきた。減反は18年度に廃止したが、その後も稲作から大豆や野菜に転作する農家には奨励金を出している。
その結果、生産量は減り続け、今回のような価格変動が生じやすくなった。稲作農家の農業所得は時給換算で10円にとどまる。平均年齢は71歳に達し後継者の確保も急がれる。
昨年改正された食料・農業・農村基本法は、食料安全保障を柱の一つに掲げた。大凶作でもないのに主食が店頭から姿を消したり、急騰したりする事態は、まさに食の安全保障に関わるといえる。
コメの安定供給に向け生産増を奨励し、値崩れしないように輸出も強化するのも一案だ。国内で不足すれば輸出分をシフトして賄える。
消費者が安定した価格で主食を確保し、農家がコメ作りを持続できる収益を得られるよう、政策全体を見直すべきだ。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年02月20日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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