【社説①・02.21】:エネルギー計画/国民の声無視する決定だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・02.21】:エネルギー計画/国民の声無視する決定だ
中長期的な国のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」を政府が約3年ぶりに改定し、閣議決定した。東京電力福島第1原発事故の反省から記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を削除し、建て替え要件を緩和した。同じ電力会社であれば、別の原発の立地場所で建設できるようになる。原発回帰を明確にした内容で、極めて大きな政策転換である。
昨年12月に経済産業省が示した計画原案に対しては「事故の教訓をないがしろにする」などの批判が相次いだ。武藤容治経産相も「特に(原発)立地県で懸念があるのは事実」と認めた。にもかかわらず、政府は「真摯(しんし)に受け止める」との文言を追加したのみで、骨格は原案を維持した。原発に不安を抱く国民の声を無視する決定と言わざるを得ない。
計画が示す柱の一つは、2040年度の発電量全体に占める電源別の割合である。23年度実績で8・5%の原発は2割程度に引き上げる。
これを実現するには30基以上の原発が必要になる。だが福島第1原発事故を受けて策定された新規制基準は非常に厳しく、再稼働した原発は14基にとどまる。建て替えなどを進めるとしても地元同意が欠かせず、稼働の倍増が可能か疑わしい。
原発を巡っては使用済み核燃料の再処理や高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分などのめどが立たず、福島第1原発の廃炉も見通せていない。問題が山積する中でなぜ原発に回帰するのか、政府は国民に丁寧な説明をするべきだ。
基本計画に合わせ政府は新たな地球温暖化対策計画も閣議決定した。温室効果ガスの排出削減目標を「35年度に13年度比60%減、40年度に同73%減」とした。35年度の数値は、国際枠組み「パリ協定」で定めた気温上昇を1・5度以内に抑える目標に必要な水準を6ポイント下回る。
十分な目標を出せないのは、火力発電の割合が高いためだとされる。23年度は68・6%、基本計画では40年度も3~4割程度を占める。しかも二酸化炭素の排出が多い石炭火力の割合は明示していない。これで国際社会の理解を得るのは難しい。
原発や火力への依存を減らすには再生可能エネルギーの拡大が急務となる。基本計画では、23年度に22・9%だった再エネを40年度には4~5割程度に増やすとした。さらなる引き上げに向け、洋上風力発電や折り曲げ可能なペロブスカイト太陽電池などの活用が期待される。
物価高によるコスト増など再エネにも課題があるのは確かだが、次世代の成長分野でもある。脱炭素と経済の両立に向け、政府には技術革新などを後押ししてもらいたい。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年02月21日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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