【社説②・02.06】:備蓄米の放出 広い視野で戦略が要る
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・02.06】:備蓄米の放出 広い視野で戦略が要る
米価の高騰が家計を直撃する中、政府は備蓄米の運用の見直しへ動き出した。
農林水産省は備蓄米放出に向けた新制度を発表した。著しい不作に限っていた方針を転換し、「円滑な流通に支障が生じる場合」にも放出を認めるとした。1年以内に同量を買い戻すことを条件に、全国農業協同組合連合会(JA全農)などの集荷業者に売り渡す。
投機目的などで在庫を抱え込む業者らに、市場放出を促す狙いがある。米価の上昇が物価高の主因とされ、当初否定していた方針の見直しに追い込まれた形だ。
流通構造が変化する中、当面の対策として選択肢を広げるのは妥当だろう。高値が続くと、消費者のコメ離れを助長しかねない。ただ、発動して米価が下がりすぎれば、農家は大きな影響を受ける。流通の実態を十分把握した上で、需給を見極めることが求められよう。
発端は昨夏、店頭でコメが品薄になったことだ。前年の猛暑による高温障害で流通量が減り、南海トラフ地震の臨時情報での買いだめも重なって集荷競争が起きた。
新米が出回り始めた秋以降も値は下がらず、出荷団体と卸売業者間の「相対取引価格」は、過去最高値を記録。今も店頭では前年比で1・5~2倍になっている。
問題は、昨年は不作でもないのに価格が高止まりしていることだ。
2024年度産米の収穫量は前年より18万トン増えたのに、主要な業者の集荷量は同17万トン(昨年11月)も減った。農水省は、誰がどこにどれだけ確保しているのか、分からないという。
近年は温暖化の影響で品質が低下し、主食米が減っている上、訪日外国人の伸びが外食需要を押し上げる。世界の紛争などで不安定性も高まっており、ちょっとしたきっかけでコメの品薄や不足が起きる可能性は今後もある。
日本の農政は食生活の変化や人口減を受け、「コメは余っている」という認識を前提としてきた。補助金で別の作物へ転作を奨励し、実質的にコメの減反を迫るなど、作りたい農家の意欲をそぐいびつな政策を続けている。
食料安全保障の強化を見据え、コメ増産も選択肢ではないか。補助金支出ではなく、国が一定買い取り、困窮家庭へ回したり、災害時に活用したりする機動的な政策も可能だろう。前例にとらわれがちな農政の枠を超え、幅広い視野から国家戦略を考えるべき時だ。
元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年02月06日 16:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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