【社説①・02.07】:ネット上の中傷/虚偽の拡散は許されない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・02.07】:ネット上の中傷/虚偽の拡散は許されない
生きている人はもちろん、亡くなった相手でも、事実無根の情報を発信したり拡散させたりして名誉を傷つければ刑法犯として処罰される可能性がある。交流サイト(SNS)を利用する人は、最低限のルールとしてわきまえねばならない。
兵庫県の斎藤元彦知事によるパワハラ疑惑などの告発文書について調べる県議会調査特別委員会(百条委員会)で委員を務め、「一身上の都合」を理由に兵庫県議を辞職した竹内英明氏(50)が1月18日、亡くなった。自殺とみられる。
これに対し、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏は「(竹内氏は)近く逮捕される予定だった」などと動画投稿サイトで発信し、竹内氏の死は自らの不正行為に起因するとの見方を示した。
ところが、発言はすぐに否定される。県警本部長が「全くの事実無根」と県議会で答弁し「明白な虚偽がSNSで拡散されていることは極めて遺憾」と述べた。警察トップが個別の案件に言及するのは異例で、強い警告と受け止めるべきだ。
立花氏は答弁を受け、警察に謝罪し動画を削除した。だが、その後も竹内氏について「政治家がちょっと誹謗(ひぼう)中傷されたぐらいで命を絶つんだったら、やめてしまえ」などと発言する動画が拡散されている。
立花氏は竹内氏の生前から「知事追い落としの黒幕」などと批判し「自宅に行く」と予告した。竹内氏は辞職の際、同僚議員に「家族の生活が脅かされる恐れがある」と話したとされる。議会活動を萎縮させたとすれば由々しき事態だ。
刑法は他者を傷つける発言に対し名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪を規定するが、従来は表現の自由に配慮し、抑制的に適用されてきた。だがSNSで誹謗中傷が際限なく拡散され、しかも消去が難しい現状は看過できない。
成城大学の西土彰一郎教授(憲法)は「表現の自由は非常に重要で、刑罰の行使には慎重になるべきだが、一方で強い侮辱的発言がまかり通ると、かえって自由が侵される恐れがある」と指摘する。
近年は虚偽の発信の自覚がなくても有罪となる判例が出ている。最高裁は2010年、ラーメン店の評判をインターネットでおとしめた加害者が誤った情報を信じたことを「相当の理由がない」と断じた。SNSでの発信も根拠の確認は不可欠だ。
立花氏の言動に関し、斎藤知事は「誹謗中傷は許されない」と一般論を述べるものの明確な非難は避け続けている。立花氏は知事選で斎藤氏を支援したが、知事は全県民の命を守る立場であることを忘れてはならない。今すぐ不適切な発言をやめるよう強く促すべきだ。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年02月07日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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