《社説①・10.19》:衆院選2024 米中対立下の外交 地域安定に資する戦略を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・10.19》:衆院選2024 米中対立下の外交 地域安定に資する戦略を
東アジアの安全保障環境が厳しさを増している。そうした中、日本がどのような外交・安保戦略を描くべきかが問われる選挙だ。
海洋進出を強める中国は、沖縄県・尖閣諸島周辺の領海に侵入を繰り返す。今夏には中国軍機による初の領空侵犯も起きた。台湾を包囲する形での大規模な軍事演習も実施している。
核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮は、ウクライナ侵攻を続けるロシアに兵器などを提供し、事実上の軍事同盟化を進める。
長らくアジアの安定を支えてきた米国の関わり方も変容しつつある。地域諸国に対して負担や役割の拡大を求める姿勢が目立っており、日本もその例外ではない。
◆抑止だけでなく対話も
岸田文雄前首相は中国の脅威を念頭に「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と訴え、防衛力の強化を進めてきた。関連予算を2027年度に国内総生産(GDP)比2%まで倍増させる計画だ。石破茂首相も岸田外交を踏襲する構えだ。
ただ、抑止力一辺倒では、相手国の疑心暗鬼を招き、かえって緊張を高める恐れがある。
日中間には、日本人学校の男児刺殺事件や中国当局による邦人拘束、東京電力福島第1原発の処理水放出問題などの懸案が横たわっている。
対話を通じて信頼を醸成し、関係安定化への糸口を探ることが不可欠だ。しかし、各党の選挙公約からは、どのような対中戦略を組み立てようとしているのかが読み取れない。
両国にとって良好な経済関係の維持は死活的に重要だ。だが、米中対立下、経済安全保障を重視する流れが強まっている。行き過ぎれば日中双方の国益を損なう。
中国は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への加盟を希望している。交渉をてこにして、国際ルールを順守するよう促すことも一案だ。
米国の内向き化が顕著となる中で、日米同盟の強靱(きょうじん)性が試されている。
衆院選直後の11月には米大統領選が控えており、日米双方で新政権が発足する。
米国では、民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領が競り合う情勢だ。いずれが勝利しても、中国に対しての強硬な姿勢は変わらないだろう。
自民党と立憲民主党は、日米同盟を基軸とする方針では共通している。国益を損なわないために主張すべきは主張しながら、関係を深化させる難しいかじ取りを迫られる。
自民の公約には盛り込まれなかったが、首相は党総裁選でアジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設を提唱した。米側は「非現実的だ」と冷ややかにみており、今後の議論次第では、日米間のあつれきになりかねない。
◆問われる日本の主体性
在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の改定については、多くの政党が公約で言及している。米軍基地が集中する沖縄の負担軽減につながる改定にしなければならない。
だが、特権を認められてきた米側との交渉は難航が予想される。与野党は協定見直しの道筋を明確に示すべきだ。
ウクライナや中東で紛争が長期化し、核使用のリスクが高まっている。日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)にノーベル平和賞が贈られることになったのは、こうした現状への警鐘だ。
唯一の戦争被爆国として、核廃絶に向けて各国に粘り強く働きかけなければならない。その第一歩となるのが、核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加である。しかし、米国の核の傘を含めた抑止力を重視する自民は後ろ向きだ。再考を求める。
首相は米シンクタンクへの寄稿で、アジア地域における米国の核持ち込みや核共有に言及した。日本が堅持してきた「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則と相いれない。
ウクライナ危機などで国際秩序が大きく揺らぐ中、法の支配を掲げる日本が果たすべき役割は何か。各党は選挙戦を通じて提示する責務がある。
対立する米中両国がアジアを舞台に衝突するような事態は何としても避けなければならない。地域の安定を取り戻すため、主体的でしたたかな戦略の構築に向けて議論を深める時だ。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年10月19日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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