《社説②・11.22》:3党協議の決着 国会形骸化は変わらない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・11.22》:3党協議の決着 国会形骸化は変わらない
少数与党となった自民、公明と、野党の国民民主の3党が、政府の経済対策に年収103万円を超えると所得税が生じる「103万円の壁」の引き上げを明記することで合意した。
国民民主の求めに与党が譲歩した形だ。玉木雄一郎代表は「ついに『壁』が動きました」と自身のX(旧ツイッター)に投稿し、成果をアピールしている。
政府は引き上げを経済対策に盛り込み、対策の裏付けとなる補正予算案の年内成立を目指す。国民民主は賛成する方針だ。
自公は10月の衆院選で大敗し、野党の協力なしに国会で法案や予算が通らない状態になった。安定した政権運営を目指し、国民民主を取り込んだ「部分連合」を構築していく考えという。
今回のような協議を他の政策についても重ねていくのだろうか。それでは、衆院選前と同様の形骸化した国会審議が、改善されずに続いていく恐れがある。
国会ではこれまで、政府が作成した法案や予算案が自民党内の「事前審査」を経て提出され、野党が審議で反対しても、与党が「数の力」によって押し切る展開が繰り返されてきた。
3党の協議は各党の政調会長が担当した。国会審議と違って非公式で、議事録も残らない話し合いだ。今後も国民民主の意見だけ事前に取り入れ、国会提出後は多数に頼むようになれば、事前審査制が幾分オープンになったに過ぎないと言えるだろう。
本来、実質的な議論を戦わせるべき場が国会審議であるのは言うまでもない。提出前の協議にばかり力を入れるのではなく、委員会など国会での審議を重視するよう与野党に強く求めたい。
国民民主は、合意文書に「引き上げる」や「手取り」といった文言を盛り込ませることにこだわった。衆院選の公約に掲げていたからだ。パート従業員らの働き方を左右する問題を具体的な政策論議に載せたのは、重要な成果と言える。だが今の姿勢は、次の選挙に向けたアピールを最優先としているように見える。
引き上げ幅は今後の税制論議に委ねられた。「年収の壁」が、税制だけでなく社会保障分野も含む幅広い議論が必要な問題であることを忘れてはならない。
壁の見直しに伴う財政への影響には、地方自治体から強い懸念の声が上がっている。求める政策の負の側面にも目を向け、国会の場で正面から議論する。それが責任ある政党の姿だ。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月22日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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