《社説②・12.30》:いじめの再調査 初動の大切さくみ取って
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.30》:いじめの再調査 初動の大切さくみ取って
いじめが起きたのは10年前だ。いじめられた子も、いじめた子も今は10代後半になっている。あまりに長い時を費やしてしまったと言わざるを得ない。
2014年に長野市の小学校であった1年生男児をめぐるいじめについて、第三者でつくる市の再調査委員会が報告書をまとめた。18年にも第三者委が検証したが、被害児の保護者の求めで、あらためて調査していた。
子どもの訴えを聞き逃さず、ただちに組織として対応し、学校と教委、保護者が協力して事に当たる環境をつくらねば問題解決は遠のく―。調査で導き出された教訓を重く受け止めたい。
初動対応が不適切だった。
いじめの疑いは保護者側が学校に伝えた。ところが双方の児童の聞き取りや保護者とのやりとりはほぼ担任1人に委ねられ、学校と市教委との連携、サポートが不十分だった。
「その場その場を収めようとする場当たり的な対応」(報告書)の結果、被害児の欠席が目立っていたのに、いじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」認定も遅れた。最初の第三者委による調査開始までに3年を要している。
同法に沿って、学校も対応マニュアルは備えていた。あくまで組織として事に当たること、当事者の聞き取りは別々に複数職員の同席で行うこと、管理職や他の職員、市教委とも情報共有しながら進めることが定められていたのに、そうしなかった。
いじめに対する認識や、法に基づく対応への理解が足りなかったと再検証委は指摘する。
18年の調査では、いじめで心身に負担が生じた一因には被害児の発達上の特性もあると見ていた。保護者は差別的だとし、再調査委もこの見方を排除した。
いじめの軽重や受けた傷の深さは他者が安易に決められるものではない。心身の苦痛をどう感じるかは、特性の有無にかかわらず一人一人異なる。
とりわけ子どもがそれを言葉や態度で表現するのは難しい。声なき声に耳をそばだて、目を凝らすにはチームによる複数の目と耳が要る。多忙な学校だけにそれを求めるのでなく、専門家の助力を含めた現実的な支援態勢づくりを急がねばならない。
初動を誤り、学校と保護者が不信感を募らせていたずらに時を費やせば、子どもが健やかに成長する権利は侵害され続ける。子どもの最善の利益の実現を、あらためて肝に銘じる必要がある。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月30日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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