【社説・01.09】:羽田事故の報告/教訓生かし被害軽減策を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.09】:羽田事故の報告/教訓生かし被害軽減策を
報告書に目を通すと、いかに危険な状況だったかに慄然(りつぜん)とする。教訓を丁寧にくみ取り、悲惨な事故の再発防止に生かさねばならない。
昨年1月に羽田空港で日航と海上保安庁の航空機が衝突、炎上し海保機の5人が死亡した事故で、運輸安全委員会は調査の経過報告を公表した。最終報告は来年以降になる見通しのため、現時点で判明している情報を対策に生かしてもらう趣旨だ。
事故の直接原因は、海保機が離陸順を表す「ナンバー1」の無線連絡を離陸許可と誤認し、滑走路に入ったことだ。交信記録によると、副機長は管制官の指示を正しく復唱したが機長は不完全で、さらに両者とも誤進入の認識がなかったとされる。
海保機は能登半島地震の支援物資を新潟空港へ運ぶ予定で、機長は離陸が優先されると思い込んだ。出発が遅れ、羽田に戻った後の乗員の帰宅方法を考慮し「なるべく急ぎたい」との考えもあったという。
時間に追われる状況では注意力が散漫になり、人為的ミス(ヒューマンエラー)が起きやすくなる。特に臨時発着など普段と異なる状況下の管制では、誤認を防ぐ丁寧な意思疎通を図る必要がある。
ミスをカバーするため二重三重に張られた対策も機能しなかった。
管制塔には航空機の誤進入を表示する装置があるが、管制官は日頃から「当てにしづらい」と感じ表示を見逃した。海保機を目視した別の管制官が担当官に状況を尋ねたが、意図が伝わらなかったという。
日航機側も海保機の灯火を認識せず、衝突直前になって存在に気付いた。3者とも機体接近に気付かなかった事実は極めて重い。抜本的な対策見直しにつなげねばならない。
経過報告は、日航機の379人が脱出した経緯も詳述する。延焼が迫る中、全員が無事に避難できた要因として、乗客が乗務員の指示を守り通路や出口に殺到しなかったこと、機内放送が使えない中、乗組員が機内を移動しながら指示伝達や逃げ遅れの確認をしたことなどを挙げる。
物理的な要因として、日航機が海保機に乗り上げる形で衝突したため「致命的」な損傷がなく、さらに滑走路を約2キロ逸脱しながら転覆せず草地で止まったことも見逃せない。
昨年12月に韓国・務安で起きた旅客機事故では、胴体着陸を試みた機体が滑走路から約250メートル離れた構造物に激突し、181人中179人が死亡した。人的被害に大きな差が生じた要因の分析が重要だ。
事故が起きた際に乗客の生死を分ける「サバイバルファクター」の分析は安全対策に欠かせない。最終報告ではあらゆる観点から安全性の向上に資する提言を行ってほしい。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月09日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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