【社説①・01.10】:日本経済再生 「成長型」への飛躍果たしたい
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・01.10】:日本経済再生 「成長型」への飛躍果たしたい
◆長期停滞の打破で家計に恩恵を◆
日本が、高い賃金と活発な投資が主導する「成長型経済」に着実に移行し、デフレから完全に脱却できるか。今年は真価が問われる年になる。
日本企業の潜在力は高いはずだ。リスクを回避するばかりでなく、大胆な成長戦略へと踏み出していってもらいたい。
◆積極投資へと変革せよ
成長型経済へと転換していく上で今、必要とされるのは、経営者の意識変革である。
日本企業は、バブルが崩壊した後の「失われた30年」で、製品をより安価に作るコストカットに注力するあまり、新しいヒット商品や画期的なサービスを十分に生み出してこなかった。
その間に、グーグルやアップルなど米巨大IT企業が驚異的な成長を遂げ、中国も太陽光発電設備や電気自動車(EV)など脱炭素製品で世界を席巻している。
日本企業も、成長のスピードを加速させなければ置き去りにされるという危機感を持つべきだ。
日経平均株価は昨年、バブル期の最高値を更新し、4万円を超え長期停滞の呪縛から解き放たれた。
だが、企業の内部留保は昨年度末に過去最高の約600兆円に達し、資金を積極的に投資へと回していない。
今こそ、内部留保を活用し、攻めの姿勢に転じる時だろう。
変革の波はすでに訪れている。米中の新興EVメーカーに押されて、ホンダと日産自動車は経営統合の協議に入った。
日本企業が新たな時代を切り開き、リードしていくことを期待されている分野は少なくない。
NTTは、電力消費が大幅に少ない次世代通信基盤の実用化を進めている。三菱重工業は、二酸化炭素を回収する技術で優位に立つ。米中や欧州がしのぎを削る量子コンピューターの開発でも、日本の存在感は増している。
政府は、将来有望な分野を見定めて、集中的な資金支援などの強化をしてもらいたい。
◆デフレ脱却の正念場
日本経済は緩やかな回復基調にあるが、食料品など生活必需品の価格が上昇し、家計は苦しい。暮らしを豊かにしていくためには、生産性を高めて、国内総生産(GDP)を伸ばし、分配のパイ自体を増やしていく必要がある。
だが、この30年あまりのGDPの伸びは鈍い。ドル換算では、中国とドイツに抜かれ、世界2位から4位へと転落した。長期停滞により、世界のGDPに占めるシェア(占有率)は、1995年の約18%から約4%へと低下した。
円安の影響によるところも大きいが、通貨価値の下落は、国力の低下を反映している面もある。
さかのぼれば、デフレに陥ったのは、金融機関の破綻が相次いだ1990年代後半だ。
いまだにデフレからの完全脱却を果たせていないことが、 閉塞 感が漂う理由だろう。
国民に広く成長の恩恵を行き渡らせるには、大企業が高い成長を実現するだけでなく、雇用の7割を抱える中小企業の収益も上がる経済を目指さねばならない。
中小企業が賃上げできるよう、人件費や原材料費の取引価格への転嫁を認めていくことが重要だ。政府もしっかりと監視役を果たしていくべきである。
経営者の責務も重い。春闘で高い賃上げを続ける必要がある。こうした経済の好循環が実現すれば、 自 ずとデフレからの完全脱却も視野に入るだろう。
今年は、日本銀行の追加利上げが想定される。「金利のある世界」では、1000兆円以上に上る家計の現預金が、株式市場などに投じられていくことになる。企業の成長を、家計にも還元していくことが大切になる。
◆財政余力を高めるべき
日本経済が高い成長を目指す上では、財政の健全化も一段と重要になっていく。消費を活性化させ、少子化を防ぐためには、将来不安を 払拭 する必要があるからだ。
日銀が利上げを進めれば、1000兆円超の国債残高を抱える国の利払い負担も増えよう。
主要先進国で最悪の水準にある財政がさらに悪化すれば、成長への投資や社会保障などに十分な財源を回せなくなる恐れがある。
「トランプ関税」の行方によっては景気後退に陥る懸念もあり、備えも怠れない。
大規模な自然災害や、世界的な経済危機といった不測の事態に対応するためにも、景気回復が続く時期には財政運営を「平時」に戻していくのが基本だ。中長期の財政再建の道筋を描き、財政の余力を高めていかねばならない。
元稿:読売新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月10日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。