【社説・11.06】:無形文化遺産に酒造り 後世につなぐ追い風に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.06】:無形文化遺産に酒造り 後世につなぐ追い風に
日本酒や本格焼酎、泡盛などの「伝統的酒造り」が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されることが確実になった。日本古来の酒造りが、文化として世界に認められたことは喜ばしい。
伝統的酒造りはカビの一種であるこうじ菌を使うのが特徴で、500年以上前に原型ができたとされる。米や麦などを蒸す、こうじを作る、もろみを発酵させるなどの技術を各地の自然や気候に応じて杜氏(とうじ)らが手作業で洗練させ、継承してきた。
ユネスコの評価機関は、酒造りの知識と技術が「個人、地域、国の三つのレベルで伝承されている」と評価した。祭事や婚礼などの行事に欠かせず、地域の結束にも貢献しているとした。まさに、それぞれの土地の農業や風土に根差した産品である。
世界のアルコール類の中でも、発酵の手法は極めて珍しい。「並行複発酵」と呼ばれ、原料に含まれるでんぷんを、こうじ菌で糖に変える作用と、糖に酵母を加えてアルコール発酵させる作用を同じ容器の中で同時に進める。同じ醸造酒のワインやビールに比べ、日本酒のアルコール度数が高いのはそのためだ。
中国地方の各地でも酒造りの歴史は刻まれてきた。とりわけ広島県東広島市西条は京都・伏見、兵庫・灘と並び「日本の三大酒どころ」と称される。
酒造りに広島の技術は大きく貢献してきた。その最たるものは、東広島市安芸津出身で「吟醸酒の父」と呼ばれた酒造家三浦仙三郎(1847~1908年)が生んだ軟水醸造法だろう。
広島の水はカルシウムやマグネシウムが少ない軟水で、酒造りにはそぐわないとされていた。発酵が進みにくい点を逆手に取り、発酵に長時間かける方法を確立。まろやかで繊細な広島の酒を誕生させた。広島は一大産地になり、この方法を習得した杜氏が全国で活躍した。
酒造りを文化として見直す機運は近年、高まっていた。広島杜氏組合は5年前に三浦の著書「改醸法実践録」を復刻。組合長の石川達也さんは翌年、杜氏として初めて文化庁長官表彰を受けた。今年2月には、「西条酒蔵群」が酒蔵として初の国史跡になった。
ただ、日本酒の国内消費量は減少傾向が続いている。新型コロナウイルス禍で激減したお酒を楽しむ機会も、なかなか戻り切らない。杜氏の後継者不足や、酒造りに使う木おけなどの木製品の作り手の高齢化も問題になっている。
酒造り文化を後世につないでいく上で、ユネスコ無形文化遺産への登録は追い風になるに違いない。日本酒などの多様な魅力を、まずは今まで以上に多くの人に感じてもらいたい。職業として酒造りに関わる若者も増えるといい。官民が力を合わせて維持、発展に力を注ぐべきだ。
海外に知ってもらう機会が増えれば、輸出の拡大につながる。10年前に無形文化遺産に登録された「和食」と組み合わせれば、外国人観光客を引き寄せる効果も期待できるだろう。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月06日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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