《社説①・12.24》:与党税制大綱 政局優先の議論では困る
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.24》:与党税制大綱 政局優先の議論では困る
自民、公明両党が2025年度の与党税制改正大綱を決めた。
所得税が生じる「年収103万円の壁」の扱いが焦点になった。少数与党となり、議論に加わった野党の国民民主党が強くこだわったからだ。
課税される最低水準の引き上げについて、国民民主が178万円を主張したのに対し、自公は123万円を提示。合意に至らず大綱に123万円と明記した。
ただ、今回は大綱の内容がそのまま実現するとは限らない。少数与党のため、政府が大綱に沿った法案を出しても野党の協力がないと成立は難しいからだ。合意に向けた議論は今後も続く。
大綱は、インナーと呼ばれる与党の一部幹部議員の話し合いで決まるのが通例だった。野党が加わったことで決定過程の可視化が進んだとの評価も聞かれる。
税制の議論を、これまでより開かれた形に変えていく一歩となった面はあるかもしれない。だが今回、その内容は政局的な思惑ばかりが先行し、改正による効果や財源に関する議論が深まったとは言いがたいものになった。
国民民主は「年収の壁」の引き上げによる「手取りアップ」を掲げている。つまり減税を主張しているわけだが、それで生じる税収減をどうカバーしていくのか、明確な考え方を示していない。責任ある対応とは言いがたい。
同党の案が通れば7兆~8兆円の税収減になるとされる。有権者にアピールしようと減税を訴えるだけでなく、負担のあり方にも十分に目配りしてほしい。
大綱では、大学生年代の子を扶養する親の税負担を軽減する「特定扶養控除」について、子の年収制限を103万円から150万円に引き上げることも決めた。年収の壁で浮上した論点の一つだ。
長くアルバイトをしても親の納税額が増えないようにし、人手不足緩和につなげる狙いがある。家計の一助にもなる。ただ、学業が本分の大学生に労働を促すだけでよいのか。学生の支援策はもっと視野を広げて考えたい。
今回の税制論議は、年収の壁に注目が集まる一方で先送りされた分野も少なくなかった。
例えば、増額した防衛費の財源確保のための増税だ。法人税とたばこ税は26年4月からの増税を決めたが、所得増税の開始時期の決定はまたも見送った。
公平性の確保や格差是正など、税制は論点が複雑に絡み合う。与野党の駆け引きを超え、腰を据えて議論する必要がある。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月24日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます