《社説②・12.24》:再審制度見直し 法務省の姿勢 楽観できぬ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.24》:再審制度見直し 法務省の姿勢 楽観できぬ
戦前の旧法をほぼ引き継いだ再審制度の改定は、もはや先送りできない課題だ。法務当局の姿勢を厳しく見ていく必要がある。
法務省が来春にも、法制審議会に諮問する方向で調整している。制度改定に後ろ向きだった姿勢を転じたようにも受け取れる動きだが、主導権を手中に収めることで、抜本的な改定を阻む意図さえ見え隠れする。
再審は、有罪が確定した裁判をやり直す制度だ。戦後、刑事訴訟法が全面改定された際、再審の規定に手を入れる時間がなく、旧法の条文がほぼそのまま残った。
袴田巌さんが再審で無罪となった事件は、制度の不備をあらわに浮かび上がらせた。罪を晴らすまでに、再審を訴えてから43年、逮捕から58年を要している。死刑囚として獄につながれる間に精神を病み、今も回復していない。
人の一生を根こそぎに奪う冤罪(えんざい)は、国家権力による重大な人権侵害だ。無実の罪は一日も早くすすがなければならない。けれども、その唯一の手段である再審には、なお厚い壁が立ちはだかる。
法務、検察当局は、確定した有罪判決が覆されることは司法の安定性を損なうとして、再審制度の見直しに背を向けてきた。1980年代に死刑4事件が再審で無罪となった後も、手つかずのまま、現在に至っている。
改めるべき点は既にはっきりしている。第一に、再審の手続きについて明文の規定を置くこと。第二に、再審開始の決定に対する検察の不服申し立ての禁止。第三に、証拠の全面開示である。
袴田さんは2014年に再審開始の決定が出ながら、検察が抗告し、再審までにさらに9年を費やした。有罪判決が揺らいだと裁判所がいったん判断したら、直ちに裁判をやり直すのが本来だ。
また、袴田さんに限らず、元の裁判で検察が開示していなかった証拠が再審につながった事件は少なくない。捜査機関が集めた証拠は公共のものであり、検察の専有物ではない。全面開示にほど遠い現状を改める必要がある。
法務、検察当局が正面から取り組む姿勢は見えない。検察は、袴田さんの再審を踏まえて、最高検に「再審担当サポート室」を設けている。組織を挙げて再審を阻む動きとしか受け取れない。
法制審への諮問が、制度改定を阻む時間稼ぎに使われかねないほか、法務当局によって議論が方向づけられ、骨抜きにされる恐れがある。市民がしっかりと目を向けていくことが不可欠だ。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月24日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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