【社説・12.24】:税制改正大綱/社会変化に応じた改革を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.24】:税制改正大綱/社会変化に応じた改革を
自民、公明の連立与党は2025年度の税制改正大綱をまとめた。10月の衆院選で少数与党に転落した結果、「手取りを増やす」を掲げ議席数を伸ばした国民民主党が議論に加わる異例の展開となった。
同党が選挙戦の目玉に掲げた「年収の壁」では、所得税の非課税枠を103万円から123万円に改めた。「178万円を目指して、来年から引き上げる」とした3党合意に基づき、今後も協議を続ける。
ただその内実は冷静な政策議論というより、25年度政府予算案審議や来年の参院選をにらみ国民民主を与党陣営に引き込む政治的思惑に左右された感が否めない。さらなる引き上げについては政策効果なども踏まえた丁寧な議論が欠かせない。
「年収の壁」が注目された要因に、非課税枠103万円が30年間変わらなかった点がある。憲法で保障する生存権を税制に反映させる主旨を踏まえれば、物価や最低賃金の上昇に合わせ適切に見直すべきだった。
交渉過程はすぐに国民民主側から発信され、引き上げに消極的な自公税制調査会幹部に批判が集中した。「インナー」と呼ばれる一部の税調幹部が決定権を握り、首相でも逆らえないとされた税制改正のプロセスが一変したのは間違いない。
一方で3党協議ばかりに議論が集中し、先送りした項目も目立つ。
岸田政権が22年に掲げた防衛力強化の財源では、26年4月からの法人税とたばこ税引き上げを決めたが、所得税増税は見送った。参院選をにらみ負担増の議論を避けたのだろう。5年間で必要な防衛費を43兆円程度とした方針に沿い防衛予算は増え続けており、財源確保を急がねば財政はいっそう悪化する。
ガソリン税に上乗せされる暫定税率も国民民主の求めで3党が廃止で合意したものの、実施時期は未定だ。ガソリン税はもともと道路特定財源で50年前に暫定税率が設けられたが、09年に一般財源となっても上乗せが続いていた。脱炭素や電気自動車の普及などを見据えれば、エンジンの排気量が課税基準となる自動車税も含め、自動車関連税全体の見直しは急務である。
非課税枠を国民民主の主張通り178万円に引き上げれば国と地方で計7兆円強の税収が減る。しかしその対策は議論の俎上(そじょう)にのぼらなかった。ガソリンの暫定税率廃止も税収減をもたらす。
減税は有権者に受け入れられやすいが、その穴埋めも考えねば、財政健全化はさらに遠のくばかりだ。3党合意を巡り税制に対する国民の関心が高まったのを好機に、社会の変化に対応して税体系を抜本的に改革する議論も求めたい。
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