【筆洗】:伝説の始まりはこうだ。貨物船でフランス・マルセイユに到着し…
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【筆洗】:伝説の始まりはこうだ。貨物船でフランス・マルセイユに到着し…
伝説の始まりはこうだ。貨物船でフランス・マルセイユに到着した青年は日本製のスクーターで単身パリへ向かう。背中にはギター。ヘルメットには日の丸。かなり珍妙ないでたちである。その道が「世界の巨匠」につながっているとは当時の青年自身も思っていなかったかもしれぬ。指揮者の小澤征爾さんが亡くなった。88歳
▼ボストン交響楽団、ウィーン国立歌劇場など名門を率いたタクトは日本人にクラシック音楽をより身近なものとし、自慢の種でもあった
▼マエストロの長い道程を見れば、曲がり角には助けてくれる人物がしばしば登場するようである。カラヤンやバーンスタインとの出会いと師事はいうまでもないが、こっちの話も信じがたい
▼1959年、ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し、世界への道を開くことになったが、参加を決めたときは既に申込期間が過ぎていた。頼み込む小澤さんを見た関係者が大会側に働きかけて、どうにか出場が認められた
▼才能と努力に培われた音楽家としての土台と、小澤さんという人間としての大きな魅力に人が手を貸し、巨匠への道を後押ししたか。そして、ときに助けられた小澤さんの振るタクトには人間の善を信じる強く、美しい心が宿ったのだろう
▼スクーターは懐かしいラビット・ジュニア。今、夕日に向かって走っていく。口笛は、「G線上のアリア」か。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【筆洗】 2024年02月11日 07:14:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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