【社説①・02.24】:ウクライナ侵攻3年/米国の方針転換は許容できぬ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・02.24】:ウクライナ侵攻3年/米国の方針転換は許容できぬ
ウクライナにロシアが侵攻して3年がたつ。戦場ではおびただしい兵士の血が流れ続け、国連によるとウクライナ市民の犠牲も1万2千人を超えた。国外に逃れた難民は690万人以上に上っている。子どもをロシアへ強制的に連れ去る戦争犯罪も報告され、プーチン大統領には国際刑事裁判所から逮捕状が出された。
多くの市民を苦しめる戦争は一刻も早くやめるべきだ。一方で、和平のプロセスに公正を欠けば、国際社会に禍根を残すことにつながりかねない。停戦や終戦の交渉はそのことを前提にする必要がある。
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握手する米ロの高官
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1月のトランプ米大統領就任後、ウクライナ侵攻を巡る情勢は一変した。米国はロシアとの直接交渉に乗り出し、早期の戦争終結を目指す。トランプ氏は「流血を止める」と息巻くが、看過出来ないのは当事者のウクライナが交渉のテーブルから除外されていることだ。
米ロは「停戦」「ウクライナ大統領選」「最終合意」の3段階を想定し調整中と米メディアは報道している。大統領選を挟むのは、現職ゼレンスキー氏の本来の任期は2024年5月に終了し、合意の資格がないとするプーチン・ロシア大統領の主張に配慮したとみられる。
ゼレンスキー氏の任期延長は、戒厳令下の措置として議会の議決を経ており、他国が同氏を一方的に排除する理由にはならない。日本政府などが「正当な国家指導者」との認識を示したのは当然である。
■大国の思惑あらわに
ロシアはゼレンスキー氏を退任に追い込み、自国寄りの政権を誕生させたい思惑があるとされる。トランプ氏もロシアに同調して「選挙なき独裁者」と決めつけ、戦争はウクライナ側が開始したかのような根拠のない主張を繰り返す。そのような状況下で大統領選が公正に行われるか疑問が拭えない。
ロシアは戦後のウクライナに関し、北大西洋条約機構(NATO)への加盟断念による中立化▽軍事力の大幅な縮小による非軍事化▽親欧米政権の否定-を求めているとされる。それでは再侵攻の懸念は払拭されず、属国化の恐れすらある。到底許容できない条件だ。
侵攻を受けた地域の行方も不透明だ。ロシアは東・南部のドネツク、ザポロジエ、ヘルソン3州の大半とルガンスク州のほとんどを実効支配する。ウクライナ側は返還を求めるが、トランプ氏は「取り戻せるというのは幻想だ」との考えを示した。
侵攻はロシア側が一方的に開始し国際法に違反することは明らかだ。にもかかわらず米国がウクライナ側の意向を踏まえず、ロシア寄りの姿勢で交渉に臨むのは道理に反する。
前米大統領のバイデン氏はロシアの侵攻を一貫して批判し、国際社会と協調してウクライナを支えてきた。トランプ氏は支援の大幅な縮小に言及するが、それは市民の生命を危険にさらすことにつながる。
トランプ氏の冷淡な態度は、鉱物資源の供与をウクライナに拒否されたためとの見方もある。だが、信頼失墜による損失の大きさは「ディール(取引)」で得られる目先の利益とは比較にならない。
■覇権主義のまん延も
いびつな交渉で失われるものはそれだけではない。大国間の交渉だけで一国の命運を決すれば、力による現状変更を容認することになる。それがまかり通れば、世界中に覇権主義がまん延しかねない。
一方、米国がウクライナ支援から手を引き、欧州の助力だけで戦争が継続することになれば、欧米の分断が深まりロシアを利するだけだろう。トランプ氏は国際協調に歩調を戻し、ウクライナの主権を尊重しながら最大限の圧力をかけるべきだ。
石破茂首相の姿勢も問われる。現在は米国の外交方針に対する表立った言及を避けているが、言うべきことを言わない外交は、日本政府の信用低下につながりかねない。
トランプ氏の誤りにはっきりと異議を唱え、ウクライナへの支援継続を強く訴えねばならない。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年02月24日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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