全国紙と地方紙が、この悪法の問題点と審議経過の危うさについて、警鐘を乱打しました。しかし、法案が通過してしまえば、これらの問題点はなかったかのような論調が書かれているのです。
以下の社説をご覧ください。安倍首相に対して要望する、お願いするという論調、安倍首相を励ます内容で書かれているのです。民主国家の根幹を揺るがす悪法にもかかわらず、追認なのです。二つの社説を読んでも、論理的にもつながらないことは明らかです。以下ご覧ください。
デーリー東北 秘密保護法案/民主国家の根幹揺るがす 2013/11/27 10:07
http://cgi.daily-tohoku.co.jp/cgi-bin/jiten/jihyo/todayjih.htm?
衆院での審議を通じて、森雅子内閣府特命担当相ら政府側の答弁は混乱した。疑問点が解消するどころか、法案に対する懸念は増すばかりだ。…さらに問題なのは、秘密の指定期間を「最長60年」にした修正だ。これでは「原則30年」後の指定解除が、軒並み60年に延ばされる恐れもある。名ばかりの修正と言わざるを得ない。国家と国民の安全を確保していくためには、外交・安全保障上の機微な情報を一定期間秘密にする必要性は否定できない。仮にそのための法整備を認めるにしても、この法案には問題がありすぎる。国家が持つ情報は、最終的に国民のものだ。それが民主国家の証しでもある。この法案は、外交・安全保障に関わる重要情報を行政府の独断で、国民の目から永遠に隠し続ける事態を招くことになりかねない。法案は今国会中に成立する可能性が高いが、参院が良識と独自性を発揮することにいちるの望みを託したい。 (引用ここまで)
デーリー東北 臨時国会閉幕へ/苦い教訓 二の舞い避けよ 2013/12/7 10
http://cgi.daily-tohoku.co.jp/cgi-bin/jiten/jihyo/todayjih.htm?
…継続審議にすれば、1985年の国家秘密法(スパイ防止法)と同様、世論の強い反発を受け廃案になるのを危惧したともみられるが、強引な手法は今後の国会運営に禍根を残した。…安倍首相は最終盤に、特定秘密の妥当性をチェックする機関を法施行までに政府内に設置する方針を明言したが、十分な審議時間が確保されず、強硬な国会運営批判にかき消された。森雅子内閣府特命担当相が国会で、法成立後も改善努力をすると答弁したように、今後も透明性を保つための見直しが不可欠だろう。野党側の対応にも問題があった。…安倍首相としては、国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法とセットでの成立により、日米同盟を一層強化するための礎を築けるという思いなのだろう。また2党との修正合意で、悲願とする集団的自衛権の行使容認や憲法改正に向けた布石になると考えているのかもしれない。しかし、野党の反対を押し切り会期内成立へ突き進んだことで、与野党間の信頼関係が大きく損なわれた。首相には第1次内閣時代に採決強行を繰り返し、内閣支持率が下降して参院選で惨敗、退陣に追い込まれた教訓がある。その二の舞いを避けるためにも、丁寧な国会運営に立ち戻るよう求めたい。(引用ここまで)
その点で、以下の信濃毎日は一貫しています。アッパレです!
しかし、「民意をくみ取る努力を怠る政治を民主政治と呼ぶことはできない」「憲法より下位の法律で外堀を埋める作戦」、「戦前のドイツで権力を掌握したナチスに言及する中で語ったものだ。厳しい批判を浴びて麻生氏は発言を撤回したけれど、安倍政権のやり方はこの言葉に倣っているように思えてならない」「一人一人が『安倍政治』の本質を見極める時期に来ている」というのであれば、「遅くともあと3年のうちには衆参の選挙がそれぞれ行われる。1票の力を合わせれば秘密法を改廃することも可能である。その時に備え、安倍政権の言動に目を注ぎ続けよう」などというようなものでないことは明らかです。
何故か。3年間で悪法に沿った、改憲に向けた政治が同じ手法・手口で強行されていくからです。そうした安倍政治の本質が浮き彫りになったのです。こうした本質をもった政権に対する対応も、当然異なってくるはずです。この悪法の廃止と参議院選挙公約にはなかった、また臨時国会上程の予定にはなかった悪法を強行した安倍政権に対して、その責任を追及し、内閣総辞職か、国会解散を求めていくべきです。
以下、お読みください。
信濃毎日 秘密保護法/会期末へ 拙速審議は許されない 2013/12/2 10:05
http://www.shinmai.co.jp/news/20131202/KT131130ETI090005000.php
臨時国会は会期末まで1週間を切った。政府与党はこの国会中に特定秘密保護法案を成立させる構えでいる。法案は先週から審議の場を参院に移している。政府は衆院と同様、国民の「知る権利」が損なわれないかといった疑問に答えることができていない。このまま成立へと向かうことは容認できない。法案にはほかに、▽政府の勝手な判断で秘密指定できる▽半永久的に隠し続けることも可能—といった問題がある。こうした問題への掘り下げは、参院の審議でも不十分なままだ。森雅子担当相は迷走答弁を続けている。例えば公務員と報道関係者の接触をめぐる規範新設についての受け答えである。委員会で「規範の新設を検討する」と述べた翌日には「報道機関を萎縮させる。規範を作ることは難しい」と発言。同じ日の午後になると委員会で「さまざまな観点から検討する」と答えている。答弁が首尾一貫しない背景には、法案が生煮えのまま国会に提出された事情がある。参院審議では、自公の与党と野党のみんなの党、日本維新の会との間で行われた修正協議のいいかげんさも露呈した。運用をチェックする第三者機関について、自民党の担当者は「内閣に情報監察を行う機関を設け、首相に進言して(妥当性を)より的確に判断できるようにする」と答弁した。チェックは首相指揮権の範囲内、との考えだ。これに対し維新の担当者は「首相の指揮監督とは別の観点から第三者的なチェックをしていきたいとの趣旨だ」と述べている。第三者機関の独立性はチェックの信頼性に直結する。見過ごせない食い違いだ。「しっかりチェックする」と言われても、これでは信用するのは難しい。政府が第三者機関のモデルとする米国の情報保全監察局も態勢は貧弱で、増え続ける機密に追いついていないのが実情という。衆院の採決ではみんなの党が賛成に回り、野党の足並みの乱れを印象づけた。みんなを含む野党7党の参院国対委員長は先日、徹底審議を行うことで合意している。合意の通り一致して法案の欠陥を追及してもらいたい。参院は「熟議の府」「再考の府」とも呼ばれる。衆院と同様に、数の力の横行を許すようでは、参院の存在意義も問われる。(引用ここまで)
信濃毎日 秘密保護法/石破氏の発言 法案の危険性さらした 2013/12/3 10:05
http://www.shinmai.co.jp/news/20131203/KT131202ETI090009000.php
参院で審議中の特定秘密保護法案には「デモ=テロ」とも解釈できる文言が挿入されている。自民党の石破茂幹事長が、これを意識したかどうかは分からない。しかし、市民団体のデモについて「単なる絶叫戦術は、テロ行為とその本質においてあまり変わらない」と自身のブログに書き込んだことは、いみじくも法案の持つ危険性をさらけ出したといえる。指定された秘密を漏らした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案。対象分野は、防衛、外交、特定有害(スパイ)活動防止、テロ活動防止の四つだ。テロとは何か—。直接示した既存の法律は見当たらない。が、この法案の中には記載されている。しかも意外な所に。行政機関の長は、特定秘密を取り扱う者について、家族らの状況から精神疾患、飲酒の節度、経済状況に至るまで「適性評価」を行う。この調査項目の一つが「テロとの関係」。ここでテロの定義をかっこ書きで示している。(政治上その他の主義主張に基づき、国家若(も)しくは他人にこれを強要し、又(また)は…)これでは「特定秘密保護法案を廃案にしろ」とシュプレヒコールを上げたり、プラカードを掲げたりして要求するデモも「テロ」として、取り締まりの対象にされかねない。きのうの参院国家安全保障特別委員会で森雅子法案担当相は、市民のデモはテロ活動に該当しないとの認識を示した。当たり前のことを答えたにすぎない。思想の自由や集会・結社・表現の自由として憲法で保障されている。しかし、法案は玉虫色の部分が多い。石破氏の発言のように解釈を変えることはいくらでもできる。石破発言は、法案の根本的欠陥を露呈した。石破氏はきのう付のブログで、問題となった部分を「本来あるべき民主主義の手法とは異なるように思います」と訂正した。ならば石破氏に問いたい。法案の概要について一般から意見を募るパブリックコメントで、約9万件の77%が「反対」だったのに、法案を週内に成立させようとしていること。福島市で開いた公聴会で、自民推薦を含め7人の公述人全員が法案に懸念を示したのに、翌日には衆院採決を強行したこと。これらは「本来あるべき民主主義の手法」なのかと。(引用ここまで)
信濃毎日 広がる慎重論/国民の声に耳を傾けよ 2013/12/5 10:05
http://www.shinmai.co.jp/news/20131205/KT131204ETI090005000.php
政府があすまでの国会会期内で成立を目指す特定秘密保護法案に対し、国民には反対や疑問が広がっている。映画監督や俳優らが反対の呼びかけ文を発表し、学者や弁護士、非政府組織(NGO)も相次いで反対を表明した。廃案や慎重審議を求める声は高まるばかりだ。けれど自民、公明両党は、きのうの地方公聴会の開催で採決の条件は整ったとし、参院特別委員会での採決を強行する構えでいる。参院の実質審議はまだ5日間。疑念が深まったのに、これで打ち切るとは乱暴だ。なぜ成立を急ぐのか。政府と与党は批判の拡大を恐れている、としか見えない。安倍晋三首相はきのうの審議で、国民の声について「PKO法案も反対があったが、結果として世界平和に貢献している。あの反対は何だったのか」と述べた。政権に間違いはないという強い自負と、聞く耳持たずの姿勢である。市民のデモをテロに例えた自民党の石破茂幹事長と重なる。秘密保護法案は、国民の「知る権利」を損なうこと、秘密が恣意(しい)的に決められ、第三者のチェックもなく、官僚の情報支配につながること、民間人も処罰の対象となり息苦しい社会になりかねないことなど、国民生活に影を落とす深刻な問題をはらんでいる。これまでの審議では、森雅子内閣府特命担当相の答弁が「有識者会議に諮って考慮する」「重層的な仕組みを設けている」と曖昧で、内容も二転三転し、疑念を深める結果になった。参院特別委での意見陳述はその一例だ。政府の意向に沿った意見を述べるはずの与党推薦の参考人までが「民間人まで処罰の対象になるのは疑問」と指摘した。福島市で開いた衆院特別委の地方公聴会でも、与党推薦を含めた全員が懸念や反対の考えを述べ、慎重審議を求めた。形式的とみられている公聴会で、全員から批判が出たのは異例と言える。それほど問題が多いということだ。きのうの参院特別委の公聴会は与党単独で強引に開催を決め、野党の出席は共産党だけだった。これで採決の前提が整ったとするなら、慎重な対応を求める国民の声を踏みにじるものだ。与党議員にも法案への異論はあるだろうが、声が聞こえてこないのが不思議だ。衆参両院で安定多数を得た政権の力を恐れてか。誰の代表なのか、それぞれが問い直してほしい。当面、選挙がないからと、民意をくもうとしないなら、民主主義の否定になる。(引用ここまで)
信濃毎日 秘密保護法/党首討論 懸念ばかりが膨らむ 2013/12/5 10:05
http://www.shinmai.co.jp/news/20131205/KT131204ETI090006000.php
安倍晋三首相の言葉に偽りあり、と言わざるを得ない。 今国会初の党首討論での発言である。
特定秘密保護法案の参院審議では秘密指定の妥当性をチェックする第三者機関のあり方など、重要な論点で政府側の曖昧な答弁が続き、制度設計の不備が次々と露呈している。 それなのに、安倍首相はきのうの討論で、議論はしっかりなされたとの認識を示した。参院に早期成立まで求めている。法案が衆院を通過した後、「参院の審議を通じて(懸念の)払拭(ふっしょく)に努めていきたい」と語ったのは首相自身である。議論を重ねるほど疑念は膨らむ一方だ。そんな状況で早期成立を求めるのはおかしい。理解は得られない。首相との論戦には民主党の海江田万里代表、みんなの党の渡辺喜美代表らが臨んだ。安倍首相は、きのう午前の参院国家安全保障特別委員会で、秘密指定などをチェックする「保全監視委員会」と、秘密指定の統一基準を決める「情報保全諮問会議」を、法施行までに政府内に設置する方針を示した。第三者機関は、参院審議の焦点の一つになっている。首相がいずれの機関も政府の中に設けるとしたことで、外から監視させる考えのないことがはっきりした。これでは恣意(しい)的な秘密指定に歯止めをかけるのは難しい。海江田氏は、首相の口から第三者機関の具体像が唐突に出てきたことや、客観性が保てる組織でないことに疑問を呈した。その上で「官僚による官僚のための情報隠しの法案だ」と批判。残りわずかな会期内での強行採決を避けることを求めた。衆院では法案の修正協議に加わり、賛成した渡辺氏も「強権的な国会であってはならない。丁寧な審議をするため会期を延長するべきだ」と訴えた。一方、首相は「秘密の指定や解除のルールはこれまでなかった」「国家安全保障会議(日本版NSC)をつくった以上、秘密を保全しなくては機能しない」と、意義や必要性を強調するばかり。議論はかみ合わなかった。問題が多すぎる法案である。もっと早く党首討論を開き、回数を重ねるべきだった。今回の討論で鮮明になったのは政府、与党の強硬な姿勢である。徹底審議を一致して求める野党の声をしっかり受け止めるべきだ。(引用ここまで)
信濃毎日 公安警察肥大/息の詰まる社会にするな 2013/12/6 10:05
http://www.shinmai.co.jp/news/20131206/KT131205ETI090007000.php
参加者を装って集会に入り込み、情報を収集する。団体事務所の近くに拠点を設けて監視を続ける。「公安警察」はこうした活動をしている。特定秘密保護法が施行されれば、違反の取り締まりと秘密の保持のため、公安警察の活動範囲は広がり、組織も強化されるだろう。それによってもたらされる監視社会は、自由にものが言える民主主義社会とは相いれない。公安警察は戦前の特高警察の流れをくみ、治安維持を名目に特定の思想を持つ団体などを対象に監視している。事件が発生して動きだす刑事警察とは対照的に、予防的な情報収集が中心だ。活動状況は今も秘密の厚いベールに包まれている。その一端が明らかになったのは3年前、インターネット上に流出した警視庁公安部の捜査関連文書によってだ。都内のイスラム圏の大使館やモスクの近くに拠点を設け、出入りする人や車をチェック。尾行を繰り返し、金融機関への口座照会などもしていた。こうして約千人の個人情報を集めた。1986年には、神奈川県警の公安警察官らが共産党幹部宅の近くにアパートを借りて電話線を引き込み、違法な盗聴をしていたことも発覚した。このような組織が特定秘密の漏えいや取得に関する捜査を担い、社会を萎縮させる。法案には扇動や共謀罪が設けられている。非公開の情報を取得しようとあおったり、話し合ったりしただけでも処罰の対象になる場合がある。公安警察は集会やデモの監視を強め、自首による刑の減免規定を利用して共謀についての密告を促したり、協力者工作を活発化させたりする恐れがある。また、特定秘密を扱う公務員や民間人が受ける「適性評価」の情報収集も公安警察が行う。きのうの参院委員会で森雅子担当相が認めた。テロリズム(「政治上その他の主義主張に基づき、国家もしくは他人に強要」する行為を含む)との関わり、精神疾患の有無、飲酒の節度などを監視や内偵によって調べることになる。公安警察は冷戦構造の崩壊とともに、その必要性が問われてきた。しかし、2001年の米中枢同時テロによってテロ防止という存在意義を見いだし、警視庁公安部には新たな課も誕生した。秘密法によって存在意義はさらに増し、肥大化しかねない。後ろにいる知らない人は誰なのか—。こんなことを常に気にする社会にしてはならない。(引用ここまで)
信濃毎日 秘密保護法/採決強行 内外の懸念無視の暴挙 2013/12/6 10:05
http://www.shinmai.co.jp/news/20131206/KT131205ETI090004000.php
何が秘密に当たるのかはっきりせず、第三者のチェックも働かない—。国民の「知る権利」を危うくする特定秘密保護の在り方には海外でも懸念する声が出ている。強行採決は、日本のイメージも損なう。他国の例を見れば、秘密指定の乱用を許さないよう制度が設けられている。比べてみると、「特定秘密」の欠陥は明らかだ。米国では、中央情報局など情報機関の活動を監視する特別委員会が上下院にある。国立公文書館内の「情報保全監察局」が行政機関に機密解除を求められる。英国やドイツでも、議会がチェック機能を担っている。英国ではことし、議会情報安全保障委員会に情報開示を強制する権限を与えた。フランスには、裁判官や国会議員でつくる独立行政機関「国防秘密査問委員会」がある。翻って日本は、独立した第三者によるチェックは実質的に見送られた。秘密指定の基準を定めたりするときは有識者の意見を聞くことになっている。とはいえ、本当に秘匿すべきものか点検できないのでは、政府に都合の悪い情報も隠される恐れがある。会期末を目前に、安倍晋三首相は「保全監視委員会」の設置を表明した。警察庁長官や外務、防衛両省の事務次官らで構成する。第三者機関には程遠い。きのうの参院特別委員会では菅義偉官房長官が新たな監察機関を設ける考えを表明した。これも内閣府に置く。結局、身内の組織であり、政府が思うまま秘密指定する不安は拭えない。「秘密の定義が十分明確ではなく、政府が不都合な情報を秘密扱いする可能性がある」 国連のピレイ人権高等弁務官の指摘だ。「情報にアクセスする権利や表現の自由に対する適切な保護規定を設けずに法整備を急ぐべきではない」として、国内外の懸念に耳を傾けるよう政府や国会に促していた。安全保障に関わるものを含め国家が集めた情報に対し、国民は知る権利を持つ。情報公開を基本に据え、秘密は極力絞り込む。それが世界の考え方だ。6月に発表された「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)にも貫かれている。政府与党には、そうした発想が欠落している。これでは私たちだけでなく国際社会からも人権感覚が疑われる。(引用ここまで)
信濃毎日 秘密保護法/力ずくの成立 民主社会を守るために 2013/12/7 10:05
http://www.shinmai.co.jp/news/20131207/KT131206ETI090001000.php
特定秘密保護法が参院で可決、成立した。民主主義の基本に照らし問題を多く抱えた法律だ。政府が勝手に解釈、運用して国民の権利を侵害しないよう、目を光らせる必要がある。秘密保護法が民主主義にそぐわない、とここで書くのには二つの理由がある。第一は、法律の中身が国民主権をうたう憲法理念に反していること。第二は、審議の進め方が乱暴で、国民の代表である国会を軽視していることだ。
<国民主権に背く法律>
「行政機関の長」である外相、防衛相、警察庁長官らが、外交、防衛、スパイ防止、テロ対策の4分野で秘密を指定できるとする法律だ。公務員による漏えいには最高懲役10年、漏えいの教唆や扇動には最高5年の厳罰で臨む。処罰の対象には市民や記者、研究者ら民間人も含まれる。
首相や大臣は忙しい。秘密を実際に指定するのは官僚になるだろう。秘密法は官僚支配をますます高じさせる法律でもある。特定秘密は国会に対しても秘匿される。提供するのは秘密会にした場合に限られる。秘密会で聞いた情報を議員が国会の外で漏らせば懲役5年。行政府が立法府を取り締まる形になる。国の主人公は国民である。国家は国民に奉仕するためにある。政府が国民に対し秘密を持つことは本来、許されることではない。やむを得ず秘密を持つときは、国民のコントロールが及ぶ仕組みを整える必要がある。秘密法にはそうした歯止めが欠けている。国民主権と相いれない法律、と言うほかない。
<審議も乱暴で強引>
国会審議も乱暴極まるものだった。福島市で開いた公聴会で反対意見が続出した翌日、与党は衆院委員会で採決を強行した。参院でも急ごしらえの公聴会を開いた翌日、慎重審議を求める野党の声を無視して委員会採決している。意見を反映させるつもりが初めからなかったのは明らかだ。参院では野党議員が務める委員長を解任してもいる。野党の委員長解任は衆参を通じ初めてだ。無理押しの極み、と言うほかない。法運用のポイントになる第三者機関については、衆院採決が終わってから首相が参院で説明するお粗末さだった。強引なやり方が重なるにつれ、国会の外では反対のデモや集会が盛り上がりを見せた。政府与党はそうした声に一切耳を傾けず、数の力で押し切った。国会の外の声に耳をふさぐようでは民主主義は死んでしまう。有権者は“選挙のときの1票”ではないのだから。民意をくみ取る努力を怠る政治を民主政治と呼ぶことはできない。
<次の選挙をにらんで>
ともあれ、法律は成立した。ここで大事になるのは運用に目を光らせる取り組みだ。▽国民の「知る権利」は尊重する▽一般の国民が知らぬ間に処罰されることはない▽通常の取材行為は処罰対象にならない▽運用は第三者機関がチェックする—。政府が約束したことの一部だ。「知る権利」は本当に守られるのか、第三者機関のチェックは中身の伴ったものになるのか、しっかり監視しよう。約束違反に対しては抗議の声を上げよう。自民党幹部は反対する街頭デモをテロに例えた。こんな人たちに任せっぱなしでは、日本は息苦しい社会になってしまう。私たちメディアの役目はこれまで以上に大事になる。同時に、厳しいものにならざるを得まい。公務員は取材に対し、これまでとは比べものにならないほど固く口を閉ざすだろうからだ。政府が都合の悪い情報を秘密指定し隠していないか、深く切り込めるかどうかが問われる。秘密保護法は4日に発足した国家安全保障会議(日本版NSC)と一体で運用される。軍事立法の一つである。安倍晋三内閣はこれから、集団的自衛権の行使容認、国家安全保障基本法の制定など安保政策を転換させていく構えでいる。外交、安保政策のウオッチもこれまで以上に大事になる。私たちはいま責任の重さをあらためてかみしめている。秘密法は安倍首相がかねて主張する「戦後レジーム(体制)からの脱却」路線の一環とみることもできる。首相はその先に憲法改正をにらんでいるはずだ。
改憲への動きを監視する決意も併せてここに書いておきたい。国会の採決が衆院から参院、委員会から本会議へと進むにつれ、反対運動や疑問視する声は日ごとに高まった。そこに、希望の一つを見いだすことができる。遅くともあと3年のうちには衆参の選挙がそれぞれ行われる。1票の力を合わせれば秘密法を改廃することも可能である。その時に備え、安倍政権の言動に目を注ぎ続けよう。(引用ここまで)
信濃毎日 秘密保護法/安倍政治 軍事優先には「ノー」を 2013/12/8 10:05
http://www.shinmai.co.jp/news/20131208/KT131206ETI090006000.php
特定秘密保護法の成立は、安倍晋三政権による実質的な憲法改定作業が始まったことを意味する。自民党が昨年春に発表した改憲草案を読めば、どんな方向を目指しているか、見えてくる。 ひと言で言えば、国家と国民の関係の逆転だ。国を上に、国民を下にしようとしているのだ。国民の「知る権利」は、憲法21条の「表現の自由」の中で保障されている。一方、自民の草案はこれに制限を加えた。
<実質改憲を許すな>
表現の自由を保障するとした上で「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」などは認めないとの項目が入る。国民の権利より国家が優先するといっているようなものだ。秘密指定を勝手にでき、政府に都合の悪い情報を隠せる秘密法と重なりはしないか。秘密法は改憲の先取りと考えていい。秘密法をめぐっては市民の反対が日増しに高まったのに、採決強行を重ねた。安倍首相の衣の下のよろいがはっきり見えた。憲法の根幹を揺るがす荒っぽい政治を傍観しているわけにはいかない。次なる一手に目を光らせ、異議申し立てをしっかり行いたい。実質的な改憲は序章に入ったにすぎない。次は歴代政府が憲法解釈で禁じてきた集団的自衛権の行使容認である。米国など緊密な関係にある国が攻撃された場合、日本に対する攻撃とみなして反撃する権利のことだ。これを認めると、「専守防衛」の自衛隊は縛りを解かれ、海外でも戦える普通の軍隊になる。他国が始めた戦争に巻き込まれる危険性が高まる。
<安保基本法の危うさ>
安倍政権は来年早々の通常国会以降、集団的自衛権の行使に法的根拠を与えるため、国家安全保障基本法案や集団的自衛事態法案を国会に提出することを考えている。これらが施行されれば、戦争放棄をうたった憲法9条が空文化するのは間違いない。自民党が昨年発表した安保基本法の概要には驚かされる。党のホームページでも読める。今すぐにも目を通してほしい。
「国は、教育、科学技術、建設、運輸、通信その他内政の各分野において、安全保障上必要な配慮を払わなければならない」「国は、我が国の平和と安全を確保する上で必要な秘密が適切に保護されるよう、法律上・制度上必要な措置を講ずる」(第3条)
「国民は、国の安全保障施策に協力し、我が国の安全保障の確保に寄与し…」(第4条)
「配慮」などとソフトな言い回しを使っているが、この通りの法律ができれば国は教育や生活、経済などあらゆる面で統制を強める可能性がある。国が国民を戦争に駆り立てていった戦前の状況をほうふつさせる内容だ。秘密法など有事絡みのさまざまな法律が組み合わさっていくことで、国民の暮らしよりも軍事を優先する国へと変わる懸念が拭えない。国際社会から認められてきた「平和国家」は名実ともに幕を閉じるかもしれない。安倍首相は憲法そのものを変えることを目指していた。高い支持率を追い風に突き進もうと考えていたに違いない。けれど、国内外からの改憲への反発は思いのほか強かった。そこで憲法に手を付けるのは後回しにして、改憲を実現する方法を考えたのではないか。憲法より下位の法律で外堀を埋める作戦である。近代国家の多くの憲法は政府などの権力を縛る「立憲主義」に立脚する。日本国憲法もそうだ。自民草案は逆向きで国民の義務や責務を強調する。権力が守るべきは憲法—との意識が薄い。このまま有事関係の法律が次々に整備されれば、憲法を改正しなくても自民草案の狙いが実現していくだろう。麻生太郎副総理がこの夏に語った言葉を思い出す。「(ドイツの)ワイマール憲法はいつの間にか変わっていた。誰も気がつかない間に変わった。あの手口を学んだらどうか」
戦前のドイツで権力を掌握したナチスに言及する中で語ったものだ。厳しい批判を浴びて麻生氏は発言を撤回したけれど、安倍政権のやり方はこの言葉に倣っているように思えてならない。
<憲法あっての平和だ>
国民主権の憲法を手放してもいいのか、軍事優先の国にしていいのか—。厳しい問いが突き付けられている。政治に無関心ではいられない状況だ。
今日の日本の平和は先の大戦の多大な犠牲と加害の反省の上にある。戦後の日本人が戦争で血を流さず、他国の人の命を奪わずにすんでいるのは憲法が歯止めをかけているからだ。憲法によらず国の方向を変えるのは許されない。一人一人が「安倍政治」の本質を見極める時期に来ている。(引用ここまで)
信濃毎日 秘密保護法/報道の自由 壁に穴をうがつ決意 2013/12/10 10:05
http://www.shinmai.co.jp/news/20131210/KT131209ETI090003000.php
報道活動の前に立ちふさがる秘密の壁は一段と高く、厚くなる。穴をうがち広く国民に知らせようとする取材は、これまでとは比べものにならないくらい厳しいものになる。私たちはいまそんな覚悟を固めている。メディアで働く者に共通する思いだろう。特定秘密保護法は閣僚らが秘密を指定し、公務員からの漏えいを厳罰によって防ぐ法律である。それは同時に、強力なメディア規制法の側面ももっている。
<メディアを規制>
特定秘密をメディアが公務員から聞き出すことも処罰の対象となる。25条の「教唆、扇動」の罪である。最高5年の懲役だ。
未遂や共謀も処罰される。実行に至らなくても、聞き出そうと相談しただけで罪に問われる可能性がある。「内心の自由」を侵害しかねない危険な法律である。メディアが取材を始める段階では、何が特定秘密に指定されているか分からない。霧の中でのスタートになる。実際に聞き出した情報が指定されていたら、最高5年の懲役が待っている。これだけでも、メディアに対する威嚇効果は十分すぎるほどだ。その前に、取材相手が口を開こうとしなくなるだろう。記者に秘密を話すと最高10年の懲役になるかもしれないとなれば、腰が引けて当たり前だ。記者なら誰しも、行政や企業が隠したがっている情報を掘り起こし、報道しようと思っている。それがメディアの使命だからだ。スクープはどうすればできるのか。方法はただ一つ。情報を持つ人と信頼関係を結ぶしかない。記者の取材に応じる人はほとんどの場合、組織の不正や逸脱に心を痛めている。報道を通じ広く社会に知らせることで、正しい方向にもっていきたいと考えている。内部告発者である。告発の意思をひそかに温めている人の気持ちを、記者が取材で共有すること。それ以外にない。内部告発は社会が自分の内部に巣くい始めた病根を取り除く手段の一つとも言える。そのルートを秘密法は閉ざしてしまう。
<何が「不当」かも曖昧>
著しく不当な取材方法でない限り処罰することはありません。法案に「報道または取材の自由に十分に配慮しなければならない」と書いてあるじゃないですか。報道の自由は侵害しません—。
政府は国会で答弁した。しかしどんなやり方が「著しく不当」な取材に当たるのか詳しい説明はない。処罰するもしないも政府の腹一つ、では受け入れられるものではない。報道と権力はそもそも緊張関係にあるのが普通である。報道に「配慮」すると言われても、素直に聞くことはできない。一方で政府は「著しく不当」とは判断されない取材方法を国会で列挙した。(1)昼夜を問わず取材相手の自宅を訪ねる「夜討ち朝駆け」(2)頻繁なメールや電話、面会(3)個人的な関係に伴う飲食の場を利用した取材(4)特定秘密を得た政治家への取材—などだ。これこそ見当違い、いらぬおせっかいというものだ。どんな取材方法であろうと、国民に伝えるべき情報を伝え「知る権利」に資する報道であれば問題とされるべきでない—。参院の参考人質疑で日比野敏陽新聞労連委員長が述べた通りである。2005年の個人情報保護法施行を思い出す。報道を制約するものではない、との説明だった。実際には官庁や警察、学校が過剰に反応し、発表資料から固有名詞が削られていった。
<「知る権利」のために>
特定秘密保護法も、公務員が過剰反応し何でも秘密にして、「見ざる、聞かざる、言わざる」状態になる可能性が高い。報道を取り巻く環境が厳しくなるのは避けられそうにない。けれどひるんではいられない。メディアに「報道の自由」が認められているのは、国民の「知る権利」に奉仕するためである。最高裁も1969年の大法廷決定で言っている。
「報道は国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し、国民の知る権利に奉仕するものである。事実報道の自由は表現の自由を規定した憲法の保障の下にあることはいうまでもない」
国民の「知る権利」あってこその「報道の自由」である。国民が知るべき情報に迫り、明らかにできないようでは、メディアの存在意義はなくなる。そのことをあらためて確認し、これまで以上に力を注ぐことを約束しておきたい。私たちはこれからも権力には厳しい目を注いでいく。秘密保護法の運用を点検し、問題が起きたら広く国民に訴えて、政府に是正を求めていくつもりである。取り組みを読者の方々が見守り、支えてくださることを願っている。(引用ここまで)