川に枕し、石に嗽ぐ。
いわゆる頑固なひねくれ者のことだが、たかが味噌汁の好みごときで、そんな風に罵られるのは心外だった。
良くある話だが、僕の故郷は赤味噌圏、妻の故郷は白味噌圏だ。一人で暮らしている際は面倒なのと、小鍋とはいえ一杯に作るのが不経済だと思って専らインスタントで済ませていたし、彼女だった頃の妻が時々僕のアパートに来て作ってくれたのは、いわゆる小洒落たイタリアンやら市販の調味剤を使った中華料理だったので問題はなかった。だが、結婚して朝晩の食事を共にするとなると話は別だ。
はじめは密やかに、妻が気付く気配がないので更に一押し、押した際の反応が芳しくなかったので隠し立てなく明確な要求を言ったら喧嘩になった。
妻の言い分は、早い話が出されたものに文句を言わず黙って食べろと、まあそんな当たりで、僕の意見は、結婚前には食べたいものを作ってくれると言ったじゃないかと言うものなので、まあ、こっちの分が悪いのは仕方がない。けれど、夫の好みに妻が少しくらい合わせてくれても良いじゃないか。
そう思って職場の先輩に相談したら、食えるものを作って頂いている身で贅沢を抜かすなと冷たい答えが返ってきた。
「反論するなら一度、うちに飯を食いに来い。藍子の手料理を振る舞ってやるぞ」
そんなわけで先輩の家で奥さんの手料理を頂いた僕は、妻に土下座して謝りたい気分になった。
表面が苦黒くて噛むと薄甘いトンカツを、ざく切りキャベツと一緒に無理矢理とんかつソースを掛けて頂く生活を送っていたら、確かに普通の味の料理はご馳走だろう。
人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。
家に帰って料理に箸を付ける際、先輩の脳裏に必ず浮かぶ言葉だそうだ。
いわゆる頑固なひねくれ者のことだが、たかが味噌汁の好みごときで、そんな風に罵られるのは心外だった。
良くある話だが、僕の故郷は赤味噌圏、妻の故郷は白味噌圏だ。一人で暮らしている際は面倒なのと、小鍋とはいえ一杯に作るのが不経済だと思って専らインスタントで済ませていたし、彼女だった頃の妻が時々僕のアパートに来て作ってくれたのは、いわゆる小洒落たイタリアンやら市販の調味剤を使った中華料理だったので問題はなかった。だが、結婚して朝晩の食事を共にするとなると話は別だ。
はじめは密やかに、妻が気付く気配がないので更に一押し、押した際の反応が芳しくなかったので隠し立てなく明確な要求を言ったら喧嘩になった。
妻の言い分は、早い話が出されたものに文句を言わず黙って食べろと、まあそんな当たりで、僕の意見は、結婚前には食べたいものを作ってくれると言ったじゃないかと言うものなので、まあ、こっちの分が悪いのは仕方がない。けれど、夫の好みに妻が少しくらい合わせてくれても良いじゃないか。
そう思って職場の先輩に相談したら、食えるものを作って頂いている身で贅沢を抜かすなと冷たい答えが返ってきた。
「反論するなら一度、うちに飯を食いに来い。藍子の手料理を振る舞ってやるぞ」
そんなわけで先輩の家で奥さんの手料理を頂いた僕は、妻に土下座して謝りたい気分になった。
表面が苦黒くて噛むと薄甘いトンカツを、ざく切りキャベツと一緒に無理矢理とんかつソースを掛けて頂く生活を送っていたら、確かに普通の味の料理はご馳走だろう。
人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。
家に帰って料理に箸を付ける際、先輩の脳裏に必ず浮かぶ言葉だそうだ。