カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

もっぷのお使い

2013-08-22 22:13:21 | 即興小説トレーニング
コショウ
 板チョコ
 チリトマトヌードル
 消しゴム
 詰め替え用洗濯洗剤

 半分冗談だったが、うちの犬(ナゾの大型モップ犬、ちなみに名前はもっぷ)に籠と買い物メモ、それにお金を待たせたら家を飛び出してしまい、慌てて探していたら、ちゃんとメモに書いた商品を籠に入れて帰って来た。ついでにメモに書いていない犬用ビーフジャーキーまで入っていた。何故かお金は減っていない。

 感心するより先に一体何があったのかと不安になり、取りあえず犬を連れてレシートの発行先であるスーパーに行ってみると、ちょうど荷出しをしていたパートのおばさんがうちの犬を見るなり言った。
「あら、さっきのモップちゃん。今度は飼い主さんと来たの?」
 やはり大概の人間はうちの犬をモップと認識するのだな、などと妙な感慨を抱きつつ、冗談とはいえ大型犬を一匹で外に出してしまったことを一応は謝り、こちらのスーパーに何か迷惑を掛けていないかと尋ねたところ、とんでもない!と答えが返ってきた。
「このモップちゃんがね、ちょっと親が目を離した隙に車道に飛び出した小さい子を助けてくれたのよ」

 本当にぴょーんと一跳びで道路の半分を超えちゃってね、向こうの歩道に渡ってから横断歩道の青信号を確認して子どもを連れて渡ってきたの、お利口ねえ。

 などと身振り手振り付きで教えてくれるおばさん。もっぷの芸達者振りは良く知っているつもりだったが、いつの間にか飼い主も知らないうちに芸の幅を更に広げていたらしい。
「それで子どもの方もモップちゃんが気に入って、お母さんに頼んでモップちゃんが持っていたカゴにあった買い物を済ませてあげたのよ。ついでにおやつも付けてあげたんですって」
 ああ、それであの買い物内容とビーフジャーキーが、などと納得する。
「本当はモップちゃんに付いていって飼い主さんにお礼を言いたかったらしいんだけど、モップちゃんったら、買い物をすませるなりすごい勢いで帰っちゃって。よっぽど飼い主さんが好きなのねって話をしていたのよ」
 恐らくもっぷにも脱走同然の外出に対する後ろめたさがあったのだろうと予想は付いたが、当然口には出さない。

 また来てね、モップちゃん。
 そんなおばさんの笑顔に曖昧な表情で応てから家に帰る途中、僕はいつものように呟いてみる。
「なあ、もっぷ」
『ひゃん』
「お前、本当に犬なのか?」
『ひゃん』
「何時まで誤魔化しきれると思ってるんだ?」
『ひゃん』

 結局、もっぷの奴はいつものようにひゃんひゃん鳴くだけだった。  
 コイツは本当に犬なんだろうか。もし未確認動物的な、或いは異次元生命体的な、更には宇宙生物的な何かだったら随分と高値が付きそうな気が気がしないでもない。

 でもまあ僕個人としては、もっぷの奴は種類が混じりすぎて何だか良く判らない外見になった、うちで飼っているモップ犬で一向に構わなかった。
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