カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

大いなる助走と疾走

2013-08-08 22:30:04 | 即興小説トレーニング
 今年の小説新人賞は確実に頂きだね!と豪語する友人に、私はどういう顔をすれば良かったのだろう。
 確かに友人の文章は技巧を凝らした端整なものだ。だが、読んでいて楽しくはない。何というか、絡みづらい。多分、技巧を凝らした自分の文章に作者である友人自身が酔っているからではないかと思うが、非常に感情移入しにくい。

 私には貴方の小説がわからないから、とか何とか言いながら取り繕うと、友人は一瞬だけ明らかに不満そうな表情になってから、まあ仕方ないよねと頷きながら微笑んだ。
「そうだよね、アタシの文章って少し一般向けじゃないし。だからラノベとか、ありきたりの恋愛小説とか、あっちの方には興味がないし」
 アンタ普段はそんな本しか読んでいないんでしょう?と哀れんだ目を向けてくる友人。私が今読んでいるのはスエン・ヘディンの『中央アジア探訪記』なのだが、当然口には出さない。
「まあ、仮に受賞してブレイクしてもアンタとは友達でいてあげるよ」
 有難うとでも言えば喜んだかも知れないが流石に疲れたので、私は自分の分の食事代をテーブルに置いて立ち上がった。
「あれ?足りないよ、奢ってくれるんじゃないの?」
 今度こそ友人の言葉を全く聞かなかった振りをして、私は足早に店を出る。

 そして、担当と自作の打ち合わせをするために、とある出版社の編集部に向かった。 
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