言語というのはつまり概念の表音もしくは表意化であり、それは即ち他国語を使用する国民ないし民族の思考概念と言える。
早い話がいくら言葉の意味を理解したつもりでいても、常識の違う他国では使用される言葉の意味や概念が我々とは根本的に異なる可能性が存在するわけだ。
「…… というわけで、あっち暮らしの長いお前にイロイロと教えて貰いたいわけだが」
酷く回りくどい言い回しは相変わらずだが、奴にしては奇妙なくらいに腰が低い物言いに何となく不気味なものを感じたオレは、単刀直入に訊いてみることにした。
「何を企んでいる」
とたんに奴は面白いくらい動揺して、それでも無駄に言葉を重ねてきた。
「別に何を企んでいるわけでもなく、単に国際社会である現代に於ける人付き合いとして、そう言った言語形態の異なる相手との円滑なコミュニケーションを計るために云々…… 」
「つまり、掛川と円滑なコミュニケーションを計りたいわけだ」
今度こそ絶句する奴。掛川とは先日転校してきた帰国子女で、あまり日本語は得意ではないらしい。ちなみにオレも一応は帰国子女なのだが、既に日本暮らしの方が長いので言葉に問題はなかった。
「残念だが、そういう場合は自力で何とかするんだな」
ばっさりと切り捨てるオレに、奴は尚も縋ってくる。
「しかしだな、一体何をどう話せば相手に誤解を受けず、なおかつ好印象を与えることが出来るかは正確な言語選択がどうしても必要なわけで…… 」
「お前はいつも半端な理論武装ばかりしているから判らないかもしれないがな、意思伝達ってのは本当はシンプルなモノなんだよ」
例えば『好きだ』とか『I LOVE YOU』とかな。
そんな風に混ぜ返すと、奴はたちまち顔色を変えてどこかに行ってしまった。他人の色恋沙汰に部外者が首を突っ込んでもろくな事にはならない。ここは一つ、奴自身の奮闘に期待しよう。まあ、一の結果を語るために十の理屈を並べるような奴が、難しい日本語が分からない異性相手にどれだけアピールできるかお手並み拝見と行こう。
そして三日後、奴は生涯で初めての彼女が出来たと報告してきて、オレは人生の理不尽を思い知った気がした。
早い話がいくら言葉の意味を理解したつもりでいても、常識の違う他国では使用される言葉の意味や概念が我々とは根本的に異なる可能性が存在するわけだ。
「…… というわけで、あっち暮らしの長いお前にイロイロと教えて貰いたいわけだが」
酷く回りくどい言い回しは相変わらずだが、奴にしては奇妙なくらいに腰が低い物言いに何となく不気味なものを感じたオレは、単刀直入に訊いてみることにした。
「何を企んでいる」
とたんに奴は面白いくらい動揺して、それでも無駄に言葉を重ねてきた。
「別に何を企んでいるわけでもなく、単に国際社会である現代に於ける人付き合いとして、そう言った言語形態の異なる相手との円滑なコミュニケーションを計るために云々…… 」
「つまり、掛川と円滑なコミュニケーションを計りたいわけだ」
今度こそ絶句する奴。掛川とは先日転校してきた帰国子女で、あまり日本語は得意ではないらしい。ちなみにオレも一応は帰国子女なのだが、既に日本暮らしの方が長いので言葉に問題はなかった。
「残念だが、そういう場合は自力で何とかするんだな」
ばっさりと切り捨てるオレに、奴は尚も縋ってくる。
「しかしだな、一体何をどう話せば相手に誤解を受けず、なおかつ好印象を与えることが出来るかは正確な言語選択がどうしても必要なわけで…… 」
「お前はいつも半端な理論武装ばかりしているから判らないかもしれないがな、意思伝達ってのは本当はシンプルなモノなんだよ」
例えば『好きだ』とか『I LOVE YOU』とかな。
そんな風に混ぜ返すと、奴はたちまち顔色を変えてどこかに行ってしまった。他人の色恋沙汰に部外者が首を突っ込んでもろくな事にはならない。ここは一つ、奴自身の奮闘に期待しよう。まあ、一の結果を語るために十の理屈を並べるような奴が、難しい日本語が分からない異性相手にどれだけアピールできるかお手並み拝見と行こう。
そして三日後、奴は生涯で初めての彼女が出来たと報告してきて、オレは人生の理不尽を思い知った気がした。