可愛らしい容姿と甘えた口調で幸せなカップルの間に割り込み、無数の破局を産みだしてきた小悪魔系の後輩が、とうとう僕と彼女に眼を付けたらしい。
せんぱぁーい、と駆け寄ってくる後輩を、彼女は物凄く判りやすい程にあからさまな態度で排除しようとしたが、それに怯むような後輩ではなかった。
「だってお二人はアタシのあこがれなんですぅ、いつも仲良しでステキだなって昔から思っていましたぁ」
先輩なら判ってくれますよね?と一見無邪気な風を装って腕を絡めてきた後輩に、彼女は満面の笑顔で答えた。
「そう思うなら邪魔しないで貰いたいわね、知ってる?邪魔って言葉の意味」
すると後輩はいかにも傷付いたと言わんばかりの表情となって口元を歪めながら、しかし瞳に涙など一滴も浮かべぬまま途切れ途切れに呟き始める。
「そう…… ですよね、邪魔ですよねアタシ、でも…… それでもアタシ、やっぱり、お二人のことが好きなんです…… 」
イヤなところがあったらなるべく直しますから…… 、そう言いながら僕の顔をちらちら見てくる後輩。さすがに辟易して多少きつかろうと拒絶の言葉を並べようとした直後。
「今年に入って三組目だね、同じ言葉を言ったの」
やはり満面の笑顔のまま、しかし明らかにそれと判る修羅の形相で僕の言葉を遮り、彼女は言った。
「憧れの先輩カップルが沢山いるのは構わないけど、どうして貴方の憧れたカップルは必ず別れることになるのかしらね?」
ええー偶然ですぅーなどと小首を傾げて可愛らしく答える後輩に、彼女は無言のまま自分のポケットの中に手を突っ込んだ。その直後。
『ええー、お二人が別れたのはお二人の勝手じゃないですかぁー、アタシは関係ないですぅー』
音割れ寸前の音量で、彼女の甘ったれた口調が再生される。途端に後輩は彼女に飛び掛かりかけたが、僕が後輩の腕を引いた隙に身を引いて逃れる彼女。
『第一、アタシはお二人が好きとは言いましたけど、アナタが好きだなんて一度も言ってないですぅー』
更に流れる音声に、後輩の顔色は始めにどす黒く、次に血の気を失った白に変わっていった。
「…… 貴方が前回別れさせた二人には本気で忠告したのよ、貴方に気をつけろって。でも、破局が訪れるまで信じては貰えなかった」
そして破局が訪れてからようやく信じてくれた彼が、それでも半信半疑で録音に協力してくれた末に得たのがこれだった。
「とにかく、これから貴方について友人に相談を受けたら、コレを聞かせて当人の判断を仰ぐことにするから…… !」
直後に女の子とは思えない力で僕の手を振り切った後輩は、獣のような叫び声を上げながら彼女のポケットの中に入っていた録音装置を奪い取り、地面に叩き付けた。
「コレでアンタの言うことなんか誰も信じないわよ!」
勝ち誇ったような後輩に、彼女は心底哀れむような視線を向けながら言って聞かせた。
「そんなもの、コピーに決まっているじゃないの」
後輩が退学処分となり、一連の騒動に決着がついた日。
お祝いに行こうと居酒屋に僕を誘った彼女は、グラスを片手に呟いた。
「本当は、あそこまでやるつもりはなかったのだけどね」
彼女が許せなかったのは自分の友人が後輩の被害にあったこと、そして、今度は彼女と僕をそのターゲットに選んだことだったと言う。
「多分、彼女は他人のものを欲しがる悪癖を抑えられない人だったのよね。だからわざわざカップルを狙って仲を掻き回して別れさせて、自分に意識を向けた相手はもう要らないと」
可愛い子に言い寄られていい気になった彼氏を擁護する気はないけどね。彼女はそう締めくくった。
その日以来、僕は彼女に惚れ直すと共に、お互いのためにも不誠実な真似だけはするまいと心に誓った。
何しろ、明日は我が身かもしれないのだから。
せんぱぁーい、と駆け寄ってくる後輩を、彼女は物凄く判りやすい程にあからさまな態度で排除しようとしたが、それに怯むような後輩ではなかった。
「だってお二人はアタシのあこがれなんですぅ、いつも仲良しでステキだなって昔から思っていましたぁ」
先輩なら判ってくれますよね?と一見無邪気な風を装って腕を絡めてきた後輩に、彼女は満面の笑顔で答えた。
「そう思うなら邪魔しないで貰いたいわね、知ってる?邪魔って言葉の意味」
すると後輩はいかにも傷付いたと言わんばかりの表情となって口元を歪めながら、しかし瞳に涙など一滴も浮かべぬまま途切れ途切れに呟き始める。
「そう…… ですよね、邪魔ですよねアタシ、でも…… それでもアタシ、やっぱり、お二人のことが好きなんです…… 」
イヤなところがあったらなるべく直しますから…… 、そう言いながら僕の顔をちらちら見てくる後輩。さすがに辟易して多少きつかろうと拒絶の言葉を並べようとした直後。
「今年に入って三組目だね、同じ言葉を言ったの」
やはり満面の笑顔のまま、しかし明らかにそれと判る修羅の形相で僕の言葉を遮り、彼女は言った。
「憧れの先輩カップルが沢山いるのは構わないけど、どうして貴方の憧れたカップルは必ず別れることになるのかしらね?」
ええー偶然ですぅーなどと小首を傾げて可愛らしく答える後輩に、彼女は無言のまま自分のポケットの中に手を突っ込んだ。その直後。
『ええー、お二人が別れたのはお二人の勝手じゃないですかぁー、アタシは関係ないですぅー』
音割れ寸前の音量で、彼女の甘ったれた口調が再生される。途端に後輩は彼女に飛び掛かりかけたが、僕が後輩の腕を引いた隙に身を引いて逃れる彼女。
『第一、アタシはお二人が好きとは言いましたけど、アナタが好きだなんて一度も言ってないですぅー』
更に流れる音声に、後輩の顔色は始めにどす黒く、次に血の気を失った白に変わっていった。
「…… 貴方が前回別れさせた二人には本気で忠告したのよ、貴方に気をつけろって。でも、破局が訪れるまで信じては貰えなかった」
そして破局が訪れてからようやく信じてくれた彼が、それでも半信半疑で録音に協力してくれた末に得たのがこれだった。
「とにかく、これから貴方について友人に相談を受けたら、コレを聞かせて当人の判断を仰ぐことにするから…… !」
直後に女の子とは思えない力で僕の手を振り切った後輩は、獣のような叫び声を上げながら彼女のポケットの中に入っていた録音装置を奪い取り、地面に叩き付けた。
「コレでアンタの言うことなんか誰も信じないわよ!」
勝ち誇ったような後輩に、彼女は心底哀れむような視線を向けながら言って聞かせた。
「そんなもの、コピーに決まっているじゃないの」
後輩が退学処分となり、一連の騒動に決着がついた日。
お祝いに行こうと居酒屋に僕を誘った彼女は、グラスを片手に呟いた。
「本当は、あそこまでやるつもりはなかったのだけどね」
彼女が許せなかったのは自分の友人が後輩の被害にあったこと、そして、今度は彼女と僕をそのターゲットに選んだことだったと言う。
「多分、彼女は他人のものを欲しがる悪癖を抑えられない人だったのよね。だからわざわざカップルを狙って仲を掻き回して別れさせて、自分に意識を向けた相手はもう要らないと」
可愛い子に言い寄られていい気になった彼氏を擁護する気はないけどね。彼女はそう締めくくった。
その日以来、僕は彼女に惚れ直すと共に、お互いのためにも不誠実な真似だけはするまいと心に誓った。
何しろ、明日は我が身かもしれないのだから。