カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

狩りの果てに

2013-08-09 21:55:15 | 即興小説トレーニング
 狐狩りは貴族の趣味だと、奴は言った。
 犬をけしかけ、馬で追い、必ずや、その毛皮を手にするのだと。

 奴は常に、そうやって生きてきたのだろう。
 名門の嫡男、整った容姿、優れた頭脳、そして、放漫でありながら多くの人を惹き付ける言動。
 だからと言って、俺は奴の思うままになる必要を感じなかった。それが屈辱だったのか、奴は何とか俺を取り込もうとして、俺は常にその誘いをかわし続け、その結果、多くの人間関係を失った。おかげで世間には自分の利害に関わりのないところで他人同士の仲を取り持つのを趣味とするもの、己の利になるため他人を他人に売り渡すもの、他人同士の諍いに巻き込まれたくない故に中立という無関心を貫こうとするものが結構多く存在することを思い知ったが、これは良い勉強になったと言うより俺の人間不信を増大させる結果となった。

 学校を卒業してもそれは変わらず、奴はしつこく俺に付きまとい、俺は更に逃げ続けた。
 なぜ俺が追われるのか、なぜ奴が俺を追うのか、そんな理由は考えることもなく、ただ、逃げ続けた。
 
 だが、何故か奴はある時期を境に俺への追跡を止め、俺の周囲は久し振りに静かになった。
 これでようやく俺にも平和な生活が訪れ、やがて一人の女性と出会い、結ばれ、子どもも出来た頃。奴は再び俺の前に現れた。これでもう逃げ切れないだろう、君が巣穴を作るのを待っていたのだと。

 結局、俺は奴に取り込まれることになった。あれだけのことをしておきながら、何故か奴は俺を側に置き、身の回りの世話を殆ど任せてきた。その気になれば、いつでも俺が奴を害することが出来る立場に俺を置き、そして言った。

 君は、いつまでも私の狐のままでいてくれて良いと。
 
 
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