あの子が、死んでしまった。
それも、私が殺したようなものだ。
随分と長い間、只の一人で世界を彷徨い続けてきた。
周囲からは気味悪がられ、ごく稀に優しくしてくれた人たちも結局は私を残して死んでいった。
見目良い少年の姿は侮りを呼び、侮りは卑劣な拘束や監禁を呼び、己の身を護るために持って生まれた力を振るえば、その力がまた次の欲望を呼び寄せた。
最後の安らぎであるはずの『死』にさえ生み出されたその直後から見放された身で、自分以外のモノと命を壊しながらただ生きるだけの、人生と呼ぶにはあまりにおぞましい命の道筋。
そんな瓦礫と血にまみれた道を進んできた私の手を、あの子は恐れることもなく握りしめてくれた。
言葉を操ることが出来ない身で、それ故に偽りのない指で、瞳で、そして笑顔で私の生を祝福してくれた。そんなあの子に向かって私が戸惑いながらも微笑むと、あの子はとても嬉しそうに微笑みかえしてくれた。
ささやかな幸せが砕け散ったのは、幼くして両親を亡くしたあの子が奉公していた館の主人が私の存在に気付き、あの子を盾に私を己の意に従わせようとした為だった。あの子の身を護るためにと館の主人に従うことにした私は、その結果、私を利用しようとする者たちにとってあの子が切り札であると、愚かにも明かしてしまったのも同然だった。
あの子は様々な勢力に狙われ、奪い取られ、しまいには他者に奪われるよりはと血迷った馬鹿者に殺された。だから私はあの子を狙った者、奪い取ろうとした者、そして殺した者たち全てを周囲の存在諸共に全て壊した。壊すことしか考えられなかった。静かに生きることしか望んだことのない私が、出来る限りの時間を共に暮らしたいと願ったあの子を奪ったものなど存在を許すわけにはいかなかった。
幼い息子を病で失った男が息子の死を認めることが出来ず、膨大な時間と資金と技術、それに息子と同じ年頃の子ども達を使って練り上げた、永遠に歳を取らず病に冒されることもなく、常人には持ち得ない強大な力を備えた絡繰り仕掛けの息子。哀れな男の狂った夢から生み出された呪いの結晶を埋め込まれた、神の御許から遠く離れた朽ちることのない泥人形。
そんな自分が、まさか父と同じ懊悩に灼かれる日が来ることになるとは思いもしなかった。生きていて欲しいと願うこと自体が呪いそのものであると充分に承知しながら、それでも生きていて欲しいと願う存在を甦らせる手段が存在するなら、ひとは悪魔に魂を売らずにいられるのだろうか。私がこの手で殺した父が、それでも最期に私に託してきた呪いの結晶を、私は使わずに済ませられるのだろうか。
答えは既に決まっている。
あの子を一人で天国に送るくらいなら、二人で地獄を彷徨うことを選ぼう。
結局、私は己の願いを叶えるために息子を地獄に突き落としたあの男の息子でしかないのだ。
例え、あの子が二度と私に笑いかけてくれることが無くなっても。
呪いの結晶を埋め込んだあの子の躰から、瞬く間にあの子の命を奪った傷が消え失せていく。
私は無言のまま、あの子の目が開くのを待った。
それも、私が殺したようなものだ。
随分と長い間、只の一人で世界を彷徨い続けてきた。
周囲からは気味悪がられ、ごく稀に優しくしてくれた人たちも結局は私を残して死んでいった。
見目良い少年の姿は侮りを呼び、侮りは卑劣な拘束や監禁を呼び、己の身を護るために持って生まれた力を振るえば、その力がまた次の欲望を呼び寄せた。
最後の安らぎであるはずの『死』にさえ生み出されたその直後から見放された身で、自分以外のモノと命を壊しながらただ生きるだけの、人生と呼ぶにはあまりにおぞましい命の道筋。
そんな瓦礫と血にまみれた道を進んできた私の手を、あの子は恐れることもなく握りしめてくれた。
言葉を操ることが出来ない身で、それ故に偽りのない指で、瞳で、そして笑顔で私の生を祝福してくれた。そんなあの子に向かって私が戸惑いながらも微笑むと、あの子はとても嬉しそうに微笑みかえしてくれた。
ささやかな幸せが砕け散ったのは、幼くして両親を亡くしたあの子が奉公していた館の主人が私の存在に気付き、あの子を盾に私を己の意に従わせようとした為だった。あの子の身を護るためにと館の主人に従うことにした私は、その結果、私を利用しようとする者たちにとってあの子が切り札であると、愚かにも明かしてしまったのも同然だった。
あの子は様々な勢力に狙われ、奪い取られ、しまいには他者に奪われるよりはと血迷った馬鹿者に殺された。だから私はあの子を狙った者、奪い取ろうとした者、そして殺した者たち全てを周囲の存在諸共に全て壊した。壊すことしか考えられなかった。静かに生きることしか望んだことのない私が、出来る限りの時間を共に暮らしたいと願ったあの子を奪ったものなど存在を許すわけにはいかなかった。
幼い息子を病で失った男が息子の死を認めることが出来ず、膨大な時間と資金と技術、それに息子と同じ年頃の子ども達を使って練り上げた、永遠に歳を取らず病に冒されることもなく、常人には持ち得ない強大な力を備えた絡繰り仕掛けの息子。哀れな男の狂った夢から生み出された呪いの結晶を埋め込まれた、神の御許から遠く離れた朽ちることのない泥人形。
そんな自分が、まさか父と同じ懊悩に灼かれる日が来ることになるとは思いもしなかった。生きていて欲しいと願うこと自体が呪いそのものであると充分に承知しながら、それでも生きていて欲しいと願う存在を甦らせる手段が存在するなら、ひとは悪魔に魂を売らずにいられるのだろうか。私がこの手で殺した父が、それでも最期に私に託してきた呪いの結晶を、私は使わずに済ませられるのだろうか。
答えは既に決まっている。
あの子を一人で天国に送るくらいなら、二人で地獄を彷徨うことを選ぼう。
結局、私は己の願いを叶えるために息子を地獄に突き落としたあの男の息子でしかないのだ。
例え、あの子が二度と私に笑いかけてくれることが無くなっても。
呪いの結晶を埋め込んだあの子の躰から、瞬く間にあの子の命を奪った傷が消え失せていく。
私は無言のまま、あの子の目が開くのを待った。