カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

ハリー・フィーディーニを知ってるかい?

2013-08-03 18:50:08 | 即興小説トレーニング
 降霊術というのは、結構儲かる。
 何しろお客は英国の社交界に出入りするような紳士淑女がメインで、金払いは極めて良いのだ。

 関節を鳴らしてラップ音と称してみたり、薄暗い部屋に張り巡らした糸でテーブル上の物を動かしたり、浮かせてみたり、まあ言ってみれば手品を駆使した見せ物だが、お客が満足すればそれでいいと俺は思う。
 大体いい歳をした社会的地位にある連中がオカルトだの何だのに惹かれるのは、高い地位にいるが故に発散することの出来ない鬱屈した思いを、この世界には未だ解明されていない不思議があると思い込むことで少しでも解消したいからだろう。それなら、俺のような種類の人間は彼らの要望に応えてやらねばならないのだ。つまりイカサマ師やらペテン師と呼ばれる人間が。

 そんなわけで心霊術士としての俺の評判は上々だったが、どうにもマンネリを感じて雇い人を入れることにした。と言ってもそれは路地裏で拾った浮浪児の少年で、出会った当初はえらく薄汚かったが、風呂に入れて身なりを整えたら少女と見まごう外見をしていたので、これ幸いと女装させて霊媒師として使うことにした。

 最近はエクトプラズムという、綿とも煙ともつかない物質を使って霊が実体化するという写真が出回りはじめていたので、何とか利用できないかと思案を巡らせたいたら、何と少年がやってみせると請け負った。さっそく材料の小麦粉を渡すと、まるで本物のように操って見せたので本番をやらせてみたところ、これが大当たり。死んだ身内に会いたいという紳士淑女が列を成すような状態になり、一時はとても捌ききれない程だった。

 だが、いつまでも一つのことをやっていれば飽きられる。今度はどうしたものかと思案していると、少年が最近流行りの写真に『霊』を映せばいいと提案してきた。そうやって死んだ人間の写真を身内に売れば喜ばれるんじゃないかと。
 それは良い考えだと俺は早速実行に移し、やはり大当たりを取った。写真を残さずに死んでしまった愛する人の姿にもう一度会えるのだ。当たらないはずがない。

 そんなわけで俺はこの稼業で散々儲けさせて貰い、小金が貯まった当たりで自分の身の回りにきな臭いものを感じて、少年を置き去りにしてアメリカに高飛びした。そして、新しい商売に手を出したり悪い女に引っかかったりしながら破産するまで好き勝手に生きてきた。

 今、路地裏で野垂れ死にかけている俺は、今更ながらあの少年が何者だったのだろうと考えていた。俺はあの少年の言うとおりに小麦粉やカメラなど必要な物を調達はしたが、奴はいつだって『秘密』の一言で決してその種を明かそうとしなかった。当時は奴にとっての切り札だから仕方ないと深く追究しなかったが、あれは一体どういうカラクリだったのだろう。

 もしも『霊』などという物が本当に存在して、俺も遠からず、その一員になるというのなら。
 『連中』は、俺や少年をペテン師だと罵るのだろうか?
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